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代表弁護士 小川敦也

取消訴訟の出訴期間

出訴期間

 オーバーステイ(不法滞在)を理由に退去

制の裁決がなた場合、退去強制処分を

争う方法としては、退令発の取消訴

ります。この訴訟の相手方は国となりま

す。この期間を過ぎた場合には、無効確認訴

訟を提起することはできますが、違法性が認

められる可能性はさらに難しくなります。

出訴期間

 

(出訴期間)

第十四条  取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

この取消訴訟の「出訴期間」については、「処分又は裁決があったことを知った日から正当な理由がなく6箇月を経過したときは、訴えを提起することができない」とされています。

また、上記期間内であっても、「処分又は裁決の日から正当な理由がなく1年を経過したときも、訴えを提起することができない」とされていることに注意が必要です。

実際には、裁決通知書に以下のような書類が訳文とともに添付され、そこにオーバーステイとなった外国人(不法滞在者)の署名がなされます。

正当な理由とは

「正当な理由」(行訴法14条1項但書)とは

 ここでいう「正当な理由」とは、不変期間の場合の「当事者がその責めに帰することができない事由」よりも広い概念とされていますが、災害・病気・怪我・海外出張等の事情や行政庁の教示の怠惰等の事情があることが必要で、単に多忙であったことは、「正当な理由」とはいえません。

 実際にこの点が争われたケースを検討すると、オーバーステイとなった不法滞在者自身の誤解による場合が多く、そのような場合に「正当な事由」は認められていないのが現状です。

「正当な理由」を争った入管(退去強制)事案:ケース1

平成25年 2月 28日

東京地裁

平成24年(行ウ)第600号 ×

(1)行政事件訴訟法14条1項本文所定の「処分があったことを知った日」とは,処分の存在を現実に知った日を指すものであるが,処分を記載した書類が当事者に交付されるなどして,当事者において社会通念上処分のあったことを知り得べき状態に置かれたときは,特段の事情がない限り,その処分があったことを知ったものと推定することができるものと解される。

  これを本件についてみると,原告は,本件通知書等の交付を受けたことを認めており,本件退令書を示されてその執行を受けている(乙24の原告の署名指印参照)のであるから,前提事実(3)クのとおり,本件裁決の通知を受けた平成23年5月24日,本件退令書の執行を受けて収容された同年6月6日にそれぞれ本件裁決や本件退令処分があったことを知ったものと推定することができる。これに対し,前提事実(4)のとおり,原告が本件訴えを提起したのは,平成24年8月29日に至ってのことであり,上記の日から6か月以上経過した後にされたことは明らかである。そうすると,本件裁決及び本件退令処分の取消しを求める主位的請求に係る各訴えは,行政事件訴訟法14条1項本文所定の出訴期間を経過した後に提起されたものであって,出訴期間を経過したことについて同条1項ただし書にいう「正当な理由」があると認められない限り,不適法となる。

  これに対し,原告は,本件通知書等の意味が理解できなかったものであり,これらの書面の意味を理解したのは,本件訴えを提起した日から6か月前以降のことであるなどと主張しているが(なお,上記主張は,本件通知書等の交付を受けた日が行政事件訴訟法14条1項本文の処分等があったことを知った日に当たらないとする趣旨であるのか,出訴期間を経過したことについて同項ただし書の「正当な理由」があるとする趣旨であるのかは明らかではない。),原告はスペイン語を何不自由なく使用できるところ,原告に交付された本件裁決の裁決通知書(甲1)にはスペイン語訳が併記されているのであるから,その意味を理解し得なかったとは到底いえず,また,本件退令書(乙24),本件裁決の裁決通知書(乙22)にはいずれも出訴期間に係る教示文言がスペイン語で記載されている別添文書(乙23,25)が添付されており,原告において署名指印の上これを受領していることからすれば,かえって,原告において,本件裁決及び本件退令処分に対して取消訴訟を提起することができること及び出訴期間についても認識していたか,少なくとも認識し得たというべきであって,上記主張は信用することができるものとはいえず,その他,本件全証拠を見ても,上記特段の事情は認められない。

  また,原告の上記主張が,出訴期間を経過したことにつき行政事件訴訟法14条1項ただし書所定の「正当な理由」があることを基礎付ける事情として主張するものであったとしても,法の不知といった単なる本人の主観的事情は上記「正当な理由」に当たると解することはできないし,上記のとおり原告の上記主張はそもそも信用することができるものではないから,いずれにせよ,この主張をもって,上記「正当な理由」があるということはできない。

(2)よって,主位的請求に係る各訴えはいずれも不適法である。

「正当な理由」を争った入管(退去強制)事案:ケース2

平成24年 9月 7日

東京地裁

平成23年(行ウ)第219号 ×

(1)行訴法14条1項本文は,取消訴訟は,処分又は裁決があったことを知った日から6か月を経過したときは,提起することができないと規定しているところ,証拠(乙15の1及び2,16の1及び2)によれば,原告の法定代理人であるCは,平成22年1月6日に東京入管横浜支局主任審査官から本件裁決の通知を受けるとともに,東京入管横浜支局入国警備官から本件退令発付処分に係る退去強制令書を執行されたことにより,本件裁決及び本件退令発付処分があったことを知ったものと認められるから,本件裁決及び本件退令発付処分の取消しを求める訴えの出訴期間は,平成22年7月6日の経過をもって満了している。

 しかるに,原告が本件訴えを提起したのは,上記の出訴期間が満了した後の平成23年4月8日のことであるから,本件裁決及び本件退令発付処分の取消しを求める訴えは,行訴法14条1項ただし書にいう「正当な理由」があると認められない限り,不適法である。

(2)この点,原告は,Cが収容先の施設内において,入国管理局の職員から,しばしばペルーで係属している原告の名前を変える裁判はいつ終わるのかと尋ねられていたことから,Bともども,ペルーにおける原告の氏名の変更の裁判が終わるまでは他に何も手続ができないと思い込み,入国管理局の方で新たに在留資格付与に向けた手続を進めてくれているものと誤信していたものであり,行訴法14条1項ただし書にいう「正当な理由」がある旨主張する。

 しかしながら,証拠(乙15の1及び2,16の1及び2)によれば,Cは,本件裁決及び本件退令発付処分の際に,その取消訴訟の出訴期間等につき母国語であるスペイン語で記載された教示書を交付されていたことが認められ,その内容を十分理解できたと考えられることに加え,仮に原告が主張するような入国管理局の職員の言動があり,そのため,Cが原告の氏名変更の裁判が終わらない限り原告について訴訟を提起することができないと誤信したものであるとしても,そのことから,およそ行訴法14条1項ただし書にいう「正当な理由」があるとは認めることはできず,他に「正当な理由」があると認めるに足りる証拠はない。

(3)よって,本件裁決及び本件退令発付処分の取消しを求める訴えは,行訴法14条1項ただし書にいう「正当な理由」が認められず,不適法である。

「正当な理由」を争った入管(退去強制)事案:ケース3

平成24年 6月19日

東京地裁

平成23年(行ウ)第109号 ×

(1)前提事実(3)コのとおり,原告は,平成22年4月13日,本件裁決の通知を受けるとともに,東京入管入国警備官により本件退令書を示された上でその執行を受けて収容されたのであって,同日に本件裁決及び本件退令処分があったことを知ったことが明らかである。これに対し,前提事実(3)シのとおり,原告が本件訴訟を提起したのは,平成23年2月24日に至ってのことであり,上記の日から6か月以上経過した後のことである。そうすると,本件裁決及び本件退令処分の取消しを求める主位的請求に係る各訴えは,行政事件訴訟法14条1項本文所定の出訴期間を経過した後に提起されたものであって,出訴期間を経過したことについて同条1項ただし書にいう「正当な理由」があると認められない限り,不適法となる。

 この点,原告は,外国人であって我が国の法制度について知識のない原告が出訴期間内に本件裁決及び本件退令処分の取消訴訟を提起することを期待することは実質的には不可能であり,現に,原告は,仮放免のみが唯一の救済手段であると誤解しており,弁護士等の法律専門家の助力を得られて初めて実質的に取消訴訟の提起が可能となるから,原告が出訴期間を遵守できなかったことにもやむを得ない事情があるなどと主張しており,本人尋問においても,出訴期間を知らなかった旨の供述をしている(原告本人尋問調書9,10頁)。しかしながら,法の不知といった単なる本人の主観的事情は上記「正当な理由」に当たると解することはできず,原告の上記主張及び陳述から上記「正当の理由」があるということはできない。

 他方において,前提事実に加え,証拠(乙17の1及び2,19)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成22年4月13日,本件裁決の通知を受けるとともに,東京入管入国警備官により本件退令書を示された上でその執行を受けて収容された際,本件裁決及び本件退令処分に対して取消訴訟を提起することができる旨及びその出訴期間についての教示を受け,その際にはペルシア語の訳文が付された教示書を提示されそれに署名していることが認められるから,これらの事実によれば,かえって,原告は,本件裁決及び本件退令処分に対して取消訴訟を提起することができることを認識していたか,少なくとも認識し得たというべきである。そうすると,他に,本件裁決及び本件退令処分の取消訴訟を出訴期間内に提起する上で障害となる事情があったことを認めるに足りる証拠もない以上,出訴期間を徒過したことについて原告に前記「正当な理由」があるということはできないといわざるを得ない。

(2)よって,主位的請求に係る各訴えはいずれも不適法である。

「正当な理由」を争った入管(退去強制)事案:ケース4

平成24年 6月15日

東京地裁

平成23年(行ウ)第66号 ×

(1)行訴法14条1項本文は,取消訴訟は,処分又は裁決があったことを知った日から6か月を経過したときは,提起することができないと規定しているところ,証拠(乙17の1ないし3,乙18の1,2)によれば,原告は,平成22年2月4日,東京入管主任審査官から本件裁決の通知を受けるとともに,東京入管入国警備官から本件退令発付処分に係る退去強制令書を執行されたことにより,本件裁決及び本件退令発付処分があったことを知ったものと認められるから,本件裁決及び本件退令発付処分の取消しを求める訴えの出訴期間は,平成22年8月4日の経過をもって満了している。

しかるに,原告が本件訴えを提起したのは,上記の出訴期間が経過した後の平成23年2月3日のことであるから,本件裁決及び本件退令発付処分の取消しを求める訴えは,行訴法14条1項ただし書にいう「正当な理由」があると認められない限り,不適法である。

(2)この点,原告は,訴訟を提起するためには費用が必要であると信じたため訴訟の提起が遅れたものであり,行訴法14条1項ただし書にいう「正当な理由」があると主張する。

しかし,証拠(原告本人)によれば,原告は,入国管理局の職員等から上記のような説明を受けたわけではなく,単に,原告自身において,訴訟を提起するためには弁護士に依頼する費用が必要であると考え,訴訟を提起しなかったにすぎないというのであるから,かかる事情をもって,およそ行訴法14条1項ただし書にいう「正当な理由」があるとは認められず,他に「正当な理由」があると認めるに足りる証拠はない。

(3)そうすると,本件裁決及び本件退令発付処分の取消しを求める訴えは,出訴期間を経過した後に提起されたものであって,そのことにつき「正当な理由」があるとは認められないから,その余の点を判断するまでもなく,不適法である。


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