弁護士として入管業務に関わっていると、不法滞在(オーバーステイ)中のフィリピン人女性からの相談は少なくありません。
以下は、ダイヤモンド・オンラインの記事ですが、弁護士らが入管業務に係るにあたり、知っておかなければならない、重要な知識であると思いますので、ほぼそのまま引用させてもらっております。
フィリピンから「夢の日本」へ離婚できない“ジャパユキさん”の「偽装結婚」 ダイヤモンド・オンライン 2013/6/3 17:05 志賀和民
● フィリピンパブで働くための偽装結婚 日本行きの興行ビザ(タレントビザ)の発給がストップして以来、若いフィリピーナにとって「夢の日本行き」は、日本人との結婚によってのみ実現されるといっても過言ではない。とはいいつつも、フィリピンにいて日本人の配偶者を見つけるのは至難の技だ。
そのため、プロモーターの斡旋で見ず知らずの日本人とかたちだけの結婚をして、日本行きを目指す。これがイミテーション(偽装)結婚だ。日本の入管もこの偽装結婚を厳しく監視していて、本当に結婚生活をしているか確認するために、自宅訪問をしたりするそうだ。
偽装結婚の謝礼に、日本人男性には月々数万円を払うそうで、プロモーターへの支払いを合わせるとほとんど収入が見込めないこともある。そうなると、もっと稼ぐために体を売るなど、かわいそうなことになっているジャパユキさんも多いようだ。
彼女たちは、日本のフィリピンパブなどで働き、それなりの収入を得て、貯金ができてから、フィリピンに帰って元の生活に戻る。もちろん故郷で「結婚」という話も出てくるだろう。しかし日本で離婚手続きをしてきたとしても、フィリピンでも手続きをしないと、結婚の経歴はそのまま残ってしまう。
プロモーターに「在日フィリピン大使館に届けたから大丈夫だ」と言われて安心していたら、いざ結婚しようとすると、そのまま婚姻の記録が残っていて、婚姻の資格証明書が出ないという事態が多発している。 . ● 離婚制度がない国での離婚手続き
従来は、離婚の事実が記載されている戸籍謄本を在比日本大使館に提出して離婚証明をもらい、それをCity Civil Registry(登記所)に提出し、その証明書を最寄りの市役所に持っていけばよかった。これで市役所からNSO(National Statistic Office、国家統計局)に書類が送られ、婚姻の資格証明書が発行されるまでさほどの手間ではなかった。
しかしこれすらジャパユキさんにとっては簡単とはいえない手続きで、これを怠って結婚できないはめになっているフィリピーナも多かった。それがさらに、2009年あたりに法律が改正されたようで、安易に離婚することができなくなってしまった。
ご承知のとおり、カソリックの国フィリピンには離婚という制度がない。いったん結婚したら、それは生涯有効なのだ。しかし裁判に訴えて「この婚姻は無効である」という判決を裁判官が出したら、その婚姻ははじめからなかったことになり、晴れて独身に戻れる(この手続きを「アナルメントAnnulment」という)。
このようなお国柄だから、日本に行くために結婚して、フィリピンに戻ったら離婚、などという神を冒涜するような行為が許されるはずがない。そのためか、日本で行なった離婚をフィリピンにおいても有効にするために、裁判所に届けて離婚が正当であるという判決をもらわなければならなくなったのだ。そのためには10万ペソ(約25万円)程度の弁護士費用と、半年から1年半の月日がかかるそうだ。
ジャパユキさんにとっては気の遠くなるような話だ。念願の日本行きを果たしたとしても、本命の彼との結婚も当分お預けとなってしまう。日本人との結婚・離婚を繰り返し、日本行きの手段にしてきたベテランのジャパユキさんにとっても頭の痛い話だ。
● ジャパユキさんに規制をかける政府の目論見
次に結婚だが、かつては出生証明を持っていけば、市役所が比較的簡単に婚姻許可を出してくれたものが、現在はNSOから「シノマCENOMA(Certificate of No Marriage)」という婚姻資格証明をもらわなければならなくなった。
戸籍制度がないから、出生証明と婚姻証明がすべてだったフィリピーノにとっては、これも頭の痛い問題だ。同姓同名の人間が結婚しているとすると、その人とは他人であることを証明しないとシノマが出ない。もちろん過去に婚姻歴があると、それを正式に抹消していない限りシノマは出ない。
これらの措置は、偽装結婚や重婚による日本行きのビザ取得が日常化ないし商業化しているという状況に、政治家が業を煮やしたものと思われる。たしかに神聖な結婚をビザ取得の手段にするなどということは許されるべきものではない。しかも、それをエサにジャパユキ志望の若いフィリピーナの体をもてあそんだり、月々の謝礼を当てにしたり、日本男児の名折れともいえる輩もいるのも腹が立つ。
しかし、かわいそうなのは当のジャパユキさんだ。必死の思いで念願の日本行きを果たし、故郷に錦を飾ったまではいいが、その偽装結婚に生涯縛られる羽目になってしまうかもしれないのだ。これで政府の狙いどおり、偽装結婚による日本行きも下火になることは間違いないだろう。
(文・撮影/志賀和民)
著者紹介:志賀和民(シガカズタミ) 東京出身。東北大学大学院修了後、日揮(株)入社。シンガポールにをかわきりに海外勤務を歴任。1989年日揮関連会社社長に就任しフィリピンに移住。2007年4月PASCO(サロン・デ・パスコ)取締役。 |