お問い合わせ

東京都墨田区太平4-9-3

第2大正ビル

アライアンス法律事務所

TEL03-5819-0055

代表弁護士 小川敦也

裁判例1:仮放免ないし仮放免期間延長の許否と入国者収容所長又は主任審査官の裁量権

昭和51年12月13日

東京地裁

昭和50年(行ウ)第132号 ×

(一) 原告らは、原告らに対しては、従来仮放免期間の延長が許可されていたものであるから、特段の事情の変化がない限り仮放免期間の延長は許可されるべきであり、本件各処分は被告自身のした判断を恣意的に変更したもので、令第五四条第一項第二項の解釈適用を誤つた違法があると主張する。

 令の規定する退去強制令書の執行手続は身柄を収容して行うのを原則とする(令第五二条第三項第五項参照)のであるが、令第五四条に規定する仮放免の制度は、右の原則に対する例外的措置として、自費出国又はその準備のため若しくは病気治療のため等身柄を収容するとかえつて円滑な送還の執行が期待できない場合、その他人道的配慮を要する場合等特段の事情がある場合に一定の条件を付したうえで一時的に身柄の解放を認める制度と解すべきである。

 したがつて、仮放免ないしは仮放免期間延長の許否の判断については入国者収容所長又は主任審査官に右の目的的見地からする広範囲な自由裁量が与えられているというべきであり、またその判断に際しては、請求者の申立てる理由に拘束されるものではなく、前記の諸事情等についても総合的に検討する必要のあることはいうまでもない。

 これを本件についてみるに、原告洪静子を除く原告らが取消訴訟提起後である昭和五〇年七月七日原告訴訟代理人松山正とともに山崎哲夫審査二課長と面接したこと、その際同原告らは帰国する意思はなく、在留権があることを裁判所によつて判断してもらうべく訴訟及び執行停止の申立てをしたこと及び訴訟は長期間かかることが予想されその間妻子を扶養する必要があることを申し述べて同月一一日以降の仮放免期間の延長を申出たこと、理由書に扶養の必要性と訴訟提起の二点を記載し、かつ、国会議員島上善五郎のほか前記松山正を身元保証人として仮放免期間延長の申請をしたところ、同月一一日付で同年八月一一日までの期間延長が許可されたこと、原告洪有珍以外の原告らについては、同月一二日付で期間延長が許可されたこと、原告らにつき本件各処分がされたことは、当事者間に争いがない。

 右の事実に〈証拠略〉を合わせると、同年七月一一日付で原告洪静子を除く原告らに対し同年八月一一日までの仮放免期間の延長が許可されたのは、同年五月一二日出生した原告洪静子が令第二二条の二第一項に基づき適法に在留しているから、同原告のみを除外し、他の原告らを収容することは適当でないとの理由に基づくものであること、その後同年八月一日原告洪静子につき退去強制令書が発付され、かつ、原告らに自費出国の意思のないことが明らかになつたので、原告洪有珍については仮放免の理由がないと判断し、その期間延長を認めず、同年八月一二日不許可としたこと、しかし、その余の原告については家事整理の必要があるものと認め一か月間だけ期間延長を認めることとしたが、その後の延長は理由がないとしてこれを認めず、同年九月一〇日不許可としたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

 右事実によつてみれば、同年七月一一日付の原告洪静子を除く原告らに対する仮放免期間の延長は、原告らの請求理由と同じ理由によりこれを認めたものではなく、したがつて、本件各処分が被告自身のした判断を恣意的に変更してされたものということはできないから、本件各処分が令第五四条の解釈適用を誤つたものということはできない。よつて原告らの右主張は理由がない。

(二) 原告らは、原告らについて昭和五〇年八月一五日退去強制令書の送還部分の執行が停止されたから、本案判決が確定するまで数年間は法的に送還は不可能であり、したがつて、令第五二条第六項の放免がされるべきは当然であるから、本件処分は同項ひいては令第五四条の解釈適用を誤つた違法があると主張する。

 しかしながら、仮放免の許否の判断については、入国者収容所長又は主任審査官に広範囲な自由裁量が与えられていることは前述のとおりであるから、令第五二条第六項に該当する者に係る仮放免の請求についても、入国者収容所長等が当然に仮放免しなければならない義務を負うものではなく、その一切の事情を参酌した結果、場合により裁量権の逸脱ないし濫用と認められることがあるに過ぎない。そして、自らした退去強制令書発付処分の執行停止申立ての結果、その送還部分のみの執行が停止されている者につき仮放免を許可しなくても、裁量権の逸脱ないし濫用とはいえないし、その他本件各処分につき裁量権の逸脱ないし濫用が認められないことは、後記(三)に認定のとおりである。

(三) 原告らは、本件各処分がされたのは取消訴訟が係属中のことであり,特に洪有珍に対する処分は、執行停止決定申立事件につき許否の判断が近くされることが予想されていた段階であつて、本件各処分は訴訟を断念させようとするものであるから、裁量権を逸脱ないし濫用したものであると主張する。

 しかしながら、たとえ取消訴訟や執行停止決定申立事件が係属中であつても、仮放免の許否については既に述べた仮放免制度の目的に従いその許否の判断がされるべきものであつて、取消訴訟等が係属中である者は必ず仮放免を許さなければならないとする法理の存しないことはいうまでもない。また、本件の全証拠をもつてしても、被告が原告らの取消訴訟を断念させる目的をもつて本件各処分をした事実を認めることはできないし、その他裁量権の逸脱ないし濫用をうかがわしめるような事情を認めることはできない。 

 よつて、原告らの右主張は理由がない。

裁判例2:退去強制令書の送還部分の執行が停止されている場合と出入国管理令52条5項の適用の有無

昭和51年9月27日

東京地裁

昭和50年(行ウ)第159号 ×

(一) 原告は、退去強制令書に基づく収容は送還確保のための附随処分にすぎず、送還が不可能である以上収容しておく理由はなく、被告は仮放免しなければならない法的義務を負つている。したがつて何らの理由を示さず原告を収容することは憲法第一八条、第三一条、第三四条に違反し、本件処分は違法であると主張する。
 不法入国者につき退去強制令書が発付されると、入国警備官は右令書の執行によりすみやかに当該外国人を送還先に送還しなければならないのであるが(令第五二条第三項)、退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときは、送還可能のときまで、入国者収容所等に収容することができるとされている(同条第五項)。けだし、送還のため身柄の確保の必要があるほか、元来不法入国者は本邦において在留活動をすることは許されないのにかかわらず、身柄を収容し、在留活動を禁止しなければ事実上在留活動を容認することとなり、在留資格制度の建前をびん乱することとなるからである。そうすると、令の規定する退去強制手続は身柄を収容して行うのを原則とすることは明らかであり、また退去強制令書の執行がその送還部分について執行停止されている場合も令第五二条第五項の規定に該当し、右令書により収容を続けることが原則であるといわなければならない。

 ところで令第五四条に規定する仮放免の制度は、右の原則に対する例外的措置として、自費出国又はその準備のため若しくは病気治療のため等身柄を収容するとかえつて円滑な送還の執行が期待できない場合、その他人道的配慮を要する場合等特段の事情がある場合に一定の条件を付したうえで一時的に身柄の解放を認める制度と解すべきである。したがつて、仮放免の許否の判断については入国者収容所長又は主任審査官に右の目的的見地からする広範囲な自由裁量が与えられているというべきである。

 しかして、原告に対する退去強制令書は送還部分についてのみ執行が停止され、そのため直ちに本邦外に送還することができないのであるから(他に送還が不可能であるとの事情は何もない。)、送還可能のときまで収容すべきものといわねばならず、被告が仮放免を許可しなければならない法的義務を有しないことは勿論、その収容の理由を告げなければならない根拠のないこともまた明らかである。

 よつて、原告の右主張は違憲の点を論ずるまでもなく、その前提において理由がない。

(二) 原告は執行停止により送還が不可能となつている以上被告は原告を仮放免しなければならない義務を負つていると解すべきであり、このことは令第五二条第六項の趣旨からも明らかである、と主張する。

 しかしながら、仮放免の許否の判断については、入国者収容所長又は主任審査官に広範囲な自由裁量が与えられていることは前述のとおりであるから、令第五二条第六項に該当する者に係る仮放免の請求についても、入国者収容所長等が当然に仮放免しなければならない義務を負うものではなく、その一切の事情を参酌した結果、場合により裁量権の逸脱ないし濫用と認められることがあるに過ぎない。そして、自らした退去強制令書発付処分の執行停止申立ての結果、その送還部分のみの執行が停止されている者につき仮放免を許可しなくても、裁量権の逸脱ないし濫用とはいえないし、その他本件処分につき裁量権の逸脱ないし濫用が認められないことは、後記(四)に認定のとおりである。


概要 | プライバシーポリシー | サイトマップ
入管専門弁護士が、オーバーステイ(不法滞在)となった外国人の方へ、在留特別許可・仮放免・出国命令等、入管制度に関する情報をお教えいたします。