お問い合わせ

東京都墨田区太平4-9-3

第2大正ビル

アライアンス法律事務所

TEL03-5819-0055

代表弁護士 小川敦也

裁判例1:令書の収容部分の執行について

平成19年 3月 30日

大阪地裁

平成19年(行ク)第1号 

本件令書の収容部分の執行について

ア 確かに,退去強制令書発付処分のうち,収容部分は,退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときに送還可能のときまでその者を入国者収容所,収容場その他法務大臣又はその委任を受けた主任審査官が指定する場所に収容することを内容とするものであって(入管法52条5項参照),その執行により,退去強制を受ける者は,人身の自由を制約され,自由な社会生活を送ることができなくなるという不利益,苦痛を受けるということができる。しかしながら,入国者収容所又は収容場(以下「収容所等」という。)に収容されている者(以下「被収容者」という。)の処遇に関する法令の規定をみると,入管法61条の7第1項は,被収容者には,収容所等の保安上支障がない範囲内においてできる限りの自由が与えられなければならない旨規定し,同条6項の規定に基づいて制定された被収容者処遇規則(昭和56年法務省令第59号)2条は,入国者収容所長及び地方入国管理局長は,収容所等の保安上支障がない範囲内において,被収容者がその属する国の風俗習慣によって行う生活様式を尊重しなければならない旨規定している上,入管法61条の7及び被収容者処遇規則には,寝具の貸与,糧食の給与,衣類及び日用品の給与,物品の購入の許可,衛生,健康の保持,傷病者に対する措置,面会の許可等,被収容者の人権に配慮した種々の規定が置かれており,これらの規定は,収容令書又は退去強制令書に基づく収容が,外国人の退去強制という行政目的を達成するために設けられた行政手続であることにかんがみ,被収容者に対する自由の制限は,収容所等の保安上必要最小限の範囲にとどめようという趣旨によるものと解される。このような被収容者の処遇に関する入管法の規定の趣旨,入管法及び被収容者処遇規則が予定する被収容者の自由に対する制限の内容,態様,程度にかんがみると,収容令書又は退去強制令書発付処分のうちの収容部分の執行により被収容者が受ける損害は,その内容,性質,程度に照らして,特段の事情がない限り,行訴法25条2項にいう「重大な損害」には当たらないものというべきであるイ(ア)この点について,申立人は,収容という身体拘束自体が極めて重大な人権の制約を伴い,本件令書による収容は,申立人の通信,行動の自由を制約し,申立人と北川との同居生活を不可能とするものであって,それ自体が日々回復の困難な重大な損害に該当する旨主張する。

 しかしながら,アにおいて既に説示したところに加え,申立人が収容されている西日本センターの収容施設には電話が常備され,被収容者が原則として自由に使用することができるものとされていること(疎乙16),北川が,ほぼ毎日,申立人との面会に西日本センターを訪れ,面会が許可されていること(疎甲32)などからしても,申立人の主張する上記の不利益は,その内容,性質,程度に照らし,いずれも行訴法25条2項にいう「重大な損害」に当たるということはできない。

(イ)また,申立人は,本件収容の継続により平成19年度の履修登録手続をすることができない結果,在学年限の経過,除籍処分等によって学業を断念せざるを得ない事態に陥るおそれがあるところ,これは,学生である申立人にとって,重大な損害に当たり,これを避けるため緊急の必要がある旨主張する。これに対し,相手方は,申立人は,本件更新不許可処分につき取消訴訟を提起することなく,その出訴期限である平成18年12月14日を漫然と徒過させ,これを争うことなく確定させたのであって,本件収容の前に,既に申立人の学業継続は法的に認められない状態となっていたのであるから,本件収容によって学業の継続が困難になったかのような申立人の主張は失当である旨主張するとともに,申立人は,当面は,休学制度を利用するなどすれば,直ちに除籍処分を受けることなく,後に単位を追加取得すれば卒業することができる状態を維持することが可能であるから,重大な損害を避けるため緊急の必要があるとは認められないと主張する。

 確かに、退去強制令書による収容によって通学することができなくなるなどの学業継続に係る困難を生ずることは,入管法が当然に予定しているところであると解される上,その不利益の内容,性質,程度に照らしても,通常,そのことをもって,行訴法25条2項にいう「重大な損害」に該当するということはできない。 

 しかしながら,前記認定事実のとおり,申立人は,平成19年度の履修登録手続をすることができない場合,及び履修登録手続をしても所定の単位を修得することができない場合は,平成19年度に休学しない限り,本件学則30条の2第2号の規定によって,平成19年度秋学期末に同学部教授会の議を経て除籍されることとなる。そうであるところ,平成19年度の履修登録手続の最終期限は,同年4月7日であり,病気療養中であるなどの特段の事情が認められる場合を除き,上記期限経過後の履修登録は認められず,同志社大学文学部・文学研究科事務長は,申立人代理人からの照会に対し,申立人が西日本センターに収容されている場合,履修登録は認められない旨回答している上,本件学則上,休学をするためには,学長の許可を得なければならないものとされているというのである。そうすると,本件収容が平成19年4月以降も継続することとなれば,申立人は,同志社大学文学部英文学科を平成19年度秋学期末に除籍されることとなる蓋然性が高いものと認められる。

 前記認定事実のとおり,申立人は,在留資格を「留学」とする上陸許可を受けて本邦に上陸し,その後,3回の在留期間更新許可を受けて,本邦に在留し,その間,愛媛女子短期大学を卒業し,同志社大学文学部英文学科の3年次に編入学して学業を続けてきたものであって,同学科を卒業することが,平成14年4月以降の約5年間,申立人が本邦に在留してきた主要な目的であるということができる(なお,前記認定事実のとおり,申立人は,平成16年5月12日付けで2年間の在留期間更新許可を受けたにもかかわらず,平成16年度に13単位しか修得することができず,平成17年度には履修登録をしていない。申立人は,その経緯について,平成17年ころから平成18年ころにかけて申立人は精神的に不安定な状態にあったためであるといった趣旨の主張をしているところ,確かに,上記経緯の詳細については記録上必ずしも明らかではないものの,疎甲第12及び第32号証並びに疎乙第2号証によれば,申立人は,平成17年8月7日から同年9月17日まで中国に帰国して扶順市立病院でうつ病と診断されその治療を受けていた事実が一応認められるのであり,他方で,そのころ申立人が本邦において就労等その在留資格に係る活動以外の活動を専ら行っていた様子は記録上うかがわれず,前記認定事実のとおり,申立人は,平成18年度春学期には6科目14単位を修得していることからすれば,在留期間を通じて申立人の在留目的(留学)が実質的に変更したとみることはできないというべきである。)。これらにかんがみれば,本件収容によって同学科での学業を継続することができなくなるにとどまらず,同学科を除籍されるという不利益は,申立人にとって,その性質上回復困難な著しい不利益であって,行訴法25条2項にいう「重大な損害」に該当するというべきである。そして,平成19年度の履修登録手続の最終期限が同年4月7日である上,申立人が西日本センターに収容されている場合,履修登録は認められないというのであるから,本件においては,本件令書の収容部分の執行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるものというべきである。

 この点について,相手方は,申立人が本件更新不許可処分の取消しの訴えを提起せず,その出訴期限を徒過させている以上,そもそも申立人の学業継続は法的に認められない状態にあるのであって,大学を除籍されることは重大な損害に該当しないといった趣旨の主張をする。しかしながら,前記認定事実のとおり,申立人は,違反調査等において,一貫して,本件不許可処分を訴訟で争う意向を示し,又は在留特別許可を希望する理由は大学を卒業したいからである旨の供述をしている。のみならず,前記認定事実のとおり,申立人は,平成16年度は13単位しか修得せず,平成17年度は履修登録をしていないものの,平成18年度春学期において6科目14単位を修得しているのであって,卒業までに修得することが必要な単位数はわずかに17単位にすぎないことからすれば,卒業するために学業を継続したいと望むのがむしろ自然というべきである上,本件記録上,申立人が本件更新不許可処分の取消しの訴えに係る出訴期限を徒過させたのは,江頭弁護士との間において円滑な意思疎通がされなかったからであることがうかがわれ,そのことについて必ずしも申立人の責に帰すべき事由がないとはいえないとしても,少なくとも,申立人の意思に反して上記出訴期間が経過したものと認めることができる。これらによれば,申立人において学業を継続する利益を積極的に放棄したものとは認められず,むしろ,申立人は,学業を継続し,同志社大学を卒業する意思を有していることが認められる。したがって,相手方の上記主張は採用することができない。

 また,相手方は,申立人において休学制度を利用することなどによって,直ちに除籍処分を受けることなく,後に単位を追加取得すれば卒業することができる状態を維持することが可能である旨主張する。しかしながら,上記のとおり,申立人は,平成19年度の履修登録をすることができず,かつ休学を許可されなければ,平成19年度秋学期末に除籍されることとなるところ,記録上,申立人の休学が許可される可能性が高いとまでは認められない。加えて,休学すれば,学業の継続性が害され,申立人において在学年限の残りの1年間で卒業に必要な単位数を修得することが困難になることも考えられるから,相手方の上記主張も採用することができない。

(3)以上により,本件令書の収容部分及び送還部分の両方について,「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」(行訴法25条2項)に該当するというべきである。

裁判例2:

平成17年11月25日

東京地裁

平成17年(行ク)第203号 

本件処分の収容部分の執行について

ア  本件処分の収容部分が執行されると、申立人は、身柄を収容され、その行動に制約を受けることとなり、このような身体の自由に対する制約は、その性質上、不利益の程度が高いものであるということができる。

 しかし、申立人が本邦に在留する資格を有しないことは明らかであるところ、法は、このように在留資格を有しない外国人が本邦において活動をすることを認めてはいないのであるから、申立人が本邦において活動をすることができないことや、その活動を阻止するために身柄が拘束されることにはやむを得ない側面があることも否定し難いところなのであって、このような事情を考慮することなく、身柄拘束の不利益性のみに着目して、それを「重大な損害」に当たると解することは相当ではないものというべきである。したがって、「重大な損害」に当たるといえるためには、収容が継続されることによって当該外国人に健康上重大な支障が生じるなど、身柄の拘束に伴う通常の損害を超えた特別の損害が生じているとか、申立人に対しては在留特別許可を与えられるべきであることが明らかであること(その意味で、通常の在留資格のない外国人とは同列に論じることができないこと)などの事情が存する必要があるものというべきである。

イ ところで、本件記録によれば、申立人の健康状態について以下の事実が認められる。

() 平成17年8月1日及び同月8日に収容場内で診療を受け、痛風との所見により尿酸を抑える処方薬ザイロリック錠を7日分継続投薬を受けた(疎乙26)。

() 右足裏の痛みを訴え、同月29日、収容場内で診療を受け、痛風発症中との医師の所見を得、継続投薬されていたザイロリック錠の投薬を中止し、代わって痛風発作時の対応薬であるコルヒチンとボルタレンが6日分投薬された。このうちコルヒチンについては、ひどい下痢になった場合は投薬を中止するようにとの指示が出された(疎乙34)。

() 同年9月2日、収容場内で診療を受け、白癬に対するマイコスポール軟膏の投薬継続を受けた(疎乙34)。

() 同月5日、収容場内で診療を受け、胃痛と高血圧の対処のため、アルサルミンとアダラートレを7日分投薬継続された(疎乙34)。

() 同月12日、収容場内で診療を受け、高血圧と痛風の対処のため、アダラートレとボルタレンを14日分の投薬継続された(なお同月5日投与されたアルサルミンについては申立人の希望で投薬を中止した。疎乙34)。

() 同月29日、吐き気とめまいを訴え、同月30日に収容場内で診療を受け、胃薬であるマーロックスの処方を受けるとともに、外部病院への受診を指示された(疎乙36の2)。

() 同年10月3日にα病院内科において問診、触診、腹部レントゲン検査、血液検査、尿検査を受けたが、検査結果は概ね基準値の範囲内であり、顕著な異常は認められなかった。同病院医師からは、ボルタレンについては胃潰瘍の原因となるので痛むときに服用し、マーロックスについては確実に服用するように指示を受けた(疎乙36の2)。同月28日には、食欲低下が続くため、再度同病院で診察を受け、胃上部内視鏡検査により胃炎があると認められた。また、申立人の家族に対し、同病院医師が同日付けで作成交付した診断書には以下の記載がなされている。「病名胃炎、脱水、高尿酸血症」「腹痛、嘔吐にて当院し、血液検査にて脱水、高尿酸血症認めた。胃痛もあり胃炎疑われた。胃薬既に処方されており、服薬中止されていたため再開するよう指示されていた。しかし、食欲低下続くため再診。脱水軽快傾向にあったが、上部内視鏡施行したところ、胃炎あり。制酸剤既に処方されているが、食欲低下続いている。精神的に情緒乏しく精神的な原因も食欲低下の原因の一つと考えられます。精神科への受診をして下さい。」(疎甲75)。

() また、申立人が車椅子を使って移動する状態にあり、(中略)、吐き気と嘔吐の症状があり、同年9月29日、同年10月5日には吐血することもあったこと、収容前から体重が約20㎏減少している状況にあることについては相手方は特に争っていない。

ウ  申立人は、収容生活のストレスから食事ができず、嘔吐を繰り返し、持病の痛風が悪化し、歩行も困難な状況にある等体力が低下し、脱水症状から来る急性腎不全、あるいは胆のう炎等の内臓疾患を発症している可能性があり、その健康状態が収容に耐え難い状況にある旨主張するところ、上記のとおり申立人には、胃炎、脱水、高尿酸血症の症状が認められるが、収容場内での診療と投薬治療の他、必要に応じて外部診療も行われていること、脱水症状は軽快傾向にあること、腹部レントゲン検査、血液検査、尿検査、上部内視鏡検査が行われたが申立人が主張するような内臓疾患を疑わせるような検査データは検出されていないことからすると、現段階において直ちに収容に耐え難い身体的状況にあると断定することは困難であるといわざるを得ない。

  他方、α病院内科の医師は、平成17年10月28日付け作成の診断書の中で「精神的に情緒、乏しく精神的な原因も食欲低下の原因の一つと考えられます。精神科への受診をして下さい。」と記載し(疎甲75)、同年11月2日、再度診察した際にも「家族のもとを離れ、環境の変化で精神に不調を来すことは入院患者にも見られる。家族が心配している

こともあり、精神科の受診を勧める。」との発言があったというのであり(疎乙37の2)、同医師は、問診、触診、上記の各種検査結果のデータ等を踏まえ、申立人が精神科を受診することが必要な精神状態にあると診断していることが明らかである。

  ところが、相手方は、同医師が精神科の受診を勧めたのは医学的見地からの必要性に基づくものではなく、家族の心配に配慮して受診を勧めたものに過ぎず、精神科への受診の必要性はないとして受診させていないし、申立人が平成17年9月20日付けでした仮放免許可申請に対しても未だ応答をしていない状況にある。しかし、同医師は診断書において明確に精神科の受診をするよう指示し、その後の診察においても精神科の受診を勧めているというのであるから、仮に同医師の上記診断が申立人の家族が心配している状況を配慮したものであるとしても、そのような事情のみをもって、医学的見地からの必要性に基づくものではないと断定する根拠はなく、かえって上記のとおり申立人は、医師によって情緒低下が見られると診断されている上、胃炎、食欲低下、嘔吐、吐血、体重の顕著な減少といった身体症状も、申立人の精神症状に起因する可能性があり得ることからすると、このまま放置した場合には、申立人の精神状態が更に悪化し、それが、身体状態の更なる悪化にもつながっていくおそれがあることは否定し難いのであるから、少なくとも申立人を精神科に受診させ、その精神状態が収容に耐えられる状況にあるかについて慎重に判断することが必要な状況にあると認めるのが相当である。

  そうすると、申立人は、少なくとも精神科の受診が必要な状況にあるにもかかわらず、その診察を受けられない状況にあり、相手方の対応ぶりからすると、このまま収容を継続させた場合には申立人の適切な診療を受ける機会を失い、精神的、肉体的打撃を受けるおそれがあるものというべきであり、これは、身柄の拘束に伴う通常の損害を超えた特別の損害、すなわち重大な損害に当たるものというべきである。

裁判例3:

平成17年2月1日

東京地裁

平成16年(行ク)第383号 

本件令書の収容部分の執行について

ア 前記1(1)に述べたことからすれば,行政事件訴訟法252項にいう「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当するか否かについては,処分の執行等により維持される行政目的の達成の必要性とこれを執行することによって申立人が被るおそれのある損害とを総合勘案して判断すべきであるところ,退去強制令書の収容部分の執行停止を求める申立てにおいて,「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当するというためには,退去強制令書の執行による収容に伴って申立人が受ける自由の制限や精神的苦痛等の不利益,申立人の健康状態や家族の状況,その他収容に関連する諸般の事情に伴って申立人が具体的に被る損害が,退去強制令書の発付を受けた者を送還するために身柄を確保することなどの行政目的を達成する必要性を勘案しても,なお収容の継続を是認することができない程度のものであることを要すると解するのが相当である。

イ 申立人は,本件令書に基づく収容は,裁判所の裁判によらず,逃亡のおそれも問うことなく,重要な基本的人権である身体の自由を制限するもので,申立人の裁判を受ける権利を奪い,「裁判に付される者を抑留することが原則であってはなら」ないとする市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)93の趣旨に反しており,本件収容令書に基づく身体の自由の拘束自体,申立人に回復の困難な損害を与えるものである旨主張する。

  しかしながら,国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかは,専ら当該国家の立法政策にゆだねられており,当該国家が自由に決定することができるものとされているところであって,我が国の憲法上も,外国人に対し,我が国に入国する自由又は在留する権利(ないしは引き続き在留することを要求し得る権利)を保障したり,我が国が入国又は在留を許容すべきことを義務付けている規定は存在しない。そして,我が国は,出入国管理及び難民認定法を定め,一定の在留活動を行おうとする者に対してのみ,その活動内容に応じた在留資格を与えて,その入国及び在留を認める制度をとっているものである。

  これらを前提とすれば,退去強制令書の執行による収容に伴い,被収容者が身体の自由を制限されることは,一般的には,それが合理的な期間の範囲内にとどまる限り,退去強制令書の発付を受けた者を送還するために身柄を確保し,違法な在留活動を防止するという行政目的を達成するために必要なものであり,それによって被収容者に通常生じる範囲の損害は,社会通念上金銭賠償をもって満足することもやむを得ないものというべきである。

ウ 申立人は,法輪功という気功の体系の修練者として,中華人民共和国政府(以下「本国政府」という。)の法輪功に対する迫害の真相を世界中の人々に伝えることが,自己の存在を確立する根本的な課題であるところ,収容を継続された場合,このような活動ができなくなり,精神的に特別の損害を受けることになる旨主張するが,そのような活動の自由が,収容による身体の自由の制限に必然的に伴う範囲で制限を受けることは,上記行政目的に照らして許容されるものということができるうえ,申立人において,本件本案訴訟等において,代理人を通じて上記のような活動の趣旨に沿う主張,立証を行うことも可能と考えられることに照らすと,その主張

に係る活動上の不利益を受けるとしても,申立人に対し,被収容者に通常生じる範囲の損害を超え,回復困難な損害を与えるものとは認め難い。

エ 申立人は,身体の自由の制限による損害について,補償制度はなく,損害賠償も,当該職務を行った公務員の過失等を要件とすることから,金銭賠償による損害の事後的回復は事実上不可能である旨主張するが,国家賠償法の定める要件を充たす場合があり得る以上,現行法上その範囲を超える金銭賠償が認められないとしても,損害の事後的回復が事実上不可能であるということはできない。

オ なお,申立人は,難民の地位に関する議定書1 条所定の難民は,我が国に安定的に滞在する利益を有しており,難民に該当する可能性のある者について,不法入国や不法滞在に該当すると疑うに足りる相当な理由があることのみをもって収容を行うことは,上記のような利益を損ない,難民の移動に対し必要な制限以外の制限を課してはならないとする「難民の地位に関する条約」(以下「難民条約」という。)312項にも違反するものであり,このような利益が損なわれた場合の不利益は,社会通念上も金銭賠償によっては回復できない旨主張するが,申立人の主張する立場にある者であっても,同議定書上,当然に上記のような利益が保障されているもの

ではないから,上記主張は採用できない。

カ 申立人は,外部病院(a病院)で内視鏡検査を受けた結果,平成161227日,○のため,内服加療及びストレス等を避け,安静療養が必要である旨の診断を受けており(疎甲52),その症状が,長期拘禁によるストレスと送還による恐怖により悪化して,○を発症する可能性も高いところ,東京入国管理局収容場においては,施設内で十分な医療措置を期待することができず,申立人等の支援団体から要請を受けるまで,外部病院を受診させ,精密検査を受けさせていないなど,対応が遅いため,収容を継続した場合,○を発症して回復困難な損害を生じるおそれがある旨主張する。

  しかし,東京入国管理局収容場においては,看護師1名が常駐し,月曜日,水曜日,金曜日の週3回のいずれも午後が定期診療日とされ,外部病院から医師1名が派遣され,被収容者の申出等により診療を実施し,定期診療日以外の日や夜間に医師の診療を要する事態が発生したときは,外部医療機関に連行又は救急車の出動を要請する体制を採っており(疎乙27),このような体制の下で,申立人は,自ら申し出て,同年115日から126日にかけて,4回にわたり医師の診察を受け,○や○,不眠,感冒,口内炎により,延べ5回にわたる投薬を受け,治療を継続してきたものであり,同年1117日支援者の関係弁護士の要請もあって,同月24日に外部の病院

(a病院)を受診して採血検査を受け,同年1214日には,同病院で「○,○がみられるが,快方に向かっているので,投薬治療を継続の上経過観察し,次回112日再診察したい」との診断を受け,投薬治療と経過観察を継続されていること(疎乙28)が一応認められ,このような医療体制及び診療経過に照らせば,上記のとおり,同病院における平成161227日付けの診断において,○のため,ストレス等を避け,安静療養が必要であるとされたとしても,そのことから,申立人につき,東京入国管理局収容場において収容を継続した場合に,診断,治療等の対応ができず,その症状悪化による回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があると認めるには

足りない。

  したがって,申立人の上記主張も採用できない。


概要 | プライバシーポリシー | サイトマップ
入管専門弁護士が、オーバーステイ(不法滞在)となった外国人の方へ、在留特別許可・仮放免・出国命令等、入管制度に関する情報をお教えいたします。