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代表弁護士 小川敦也

本国に送還することに特段の支障はないことについて

 一般に、本国に送還することに特段の支障があるかどうかの判断においては、①送還先で出生したのかどうか、②送還先の言語を使用できるか、③学歴、就労経験、就労能力の有無、④送還先の家族・親類の有無、交流の有無、⑤送還先に財産(住居等)があるかどうか、等が判断されます。

ケース1:特別な支障の存在を否定した事案

平成25年 2月 28日

東京地裁

平成24年(行ウ)第600号 ×

ウ 本国における身上及び生活に係る事情等
 原告は,本件裁決当時46歳の稼働能力を有する成人であって,平成3年8月に本邦に入国するまでは我が国と一切の関わりのない者であり,ペルーで成育して母国語であるスペイン語を自由に使用できること,原告は,ペルーに住む原告の妻に定期的に送金したり,同じくペルーに住む妻子と週に2回程度電話で連絡を取るなどして交流し,さらに,原告の母やきょうだいとも交流が保たれていて,原告が本国に送還された場合でもこれら原告の家族や親族の援助が強く期待できることからすると,原告がペルーに帰国して生活することに特段の支障があるとは認め難い。

特段の事情を否定した裁判例2

平成25年2月27日

東京地裁

平成23年(行ウ)第539号

(4)その他の事情について

ア 前提事実,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、〔1〕原告は,本国であるタイで生まれ育ち,母国語であるタイ語については何不自由なく使用することができ,タイ国内の中学校を卒業した後,家事手伝いに従事するほか,工員として稼働するなど,本邦に入国するまではタイ国内で生活してきた者であること(乙9,乙12,乙20),〔2〕タイには原告母がその母の名義で購入した家があり,原告の叔母がそこに住んでいること(乙20),原告と原告の叔母は交流があること(乙20),原告母は平成16年6月16日から平成24年11月17日までの間に9回出国してタイに帰国しており,長いときにはその滞在期間が2か月余りにも及び,滞在中は原告の叔母宅に宿泊していること(乙33,原告本人),X7は中古車販売業及び配管工の業務に従事して稼働し月額25万円から35万円程度を得ているが,前妻に子供2人の養育費として月額15万円から20万円を送金していること(甲4,甲20,証人X7)が認められる。

イ これらの事情に照らすと,原告がタイで生活する際に住居や言葉の面で不自由はなく,また,原告は,タイに居住する原告の叔母と交流があり,原告母はおおむね1年に1度程度の頻度でタイに渡航し,やはり原告の叔母と交流があるのであるから,両者の助力を得ることが可能であり,また,X7は本邦から送金するなどして原告に経済的な支援をすることも可能であると認めるのが相当であって,これらの点においても,原告を本国であるタイに送還することについて特段の支障があるものと認めることはできないというべきである。 

ケース3:日系人の要保護性を否定した事案

平成25年 2月 21日

東京地裁

平成24年(行ウ)第292号 ×

ウ 本国に送還することに特段の支障はないことについて
 証拠(乙6,9)によれば,〔1〕原告はブラジルで出生し,ブラジルの小,中学校及び高校をそれぞれ卒業しており,ブラジルの公用語であるポルトガル語を自由に使用することができること(乙9[2頁]),〔2〕原告は稼働能力を有する成人男性であり,15歳の時にはブラジルでアルバイトをして稼働した経験もあること(乙6[14頁]),〔3〕ブラジルには,原告の父,義母及びきょうだい(兄2人及び妹)がおり,少なくとも,父ときょうだいとは現在も交流があるため(乙6[15頁]),原告がブラジルに退去強制された場合には,これらの親族から相応の支援を受けることができると考えられることなどの事実が認められ,これらの事実に照らすと,原告をブラジルに退去強制することについて特段の支障があるとはいえない(原告は、その陳述書(甲32[3頁])の中で父とは不仲である旨の供述をし,父からの支援を受けることができないことを証する証拠として父及び兄の原告宛ての各手紙(甲16の1及び2,甲18の1及び2)を提出するが,これらの手紙の内容をもって,上記の認定を覆すに足りるものとはいえない。)。

 なお,原告は,その陳述書(甲32[3枚目])の中で,健康状態が悪化している旨の供述をし,ブラジルに退去強制されることには支障がある旨述べているが,陳述書の中で原告が述べる病気は,いずれも本邦でなければ治療をすることができない性質のものであるとはいえないから,仮に原告が述べるような症状が現在原告に見られるとしても,そのことをもって原告をブラジルに退去強制することの支障に当たるとまではいえない。 

ケース4

平成25年 2月 5日

東京地裁

平成24年(行ウ)第159号 ×

(ア)原告は,〔1〕本邦で長期にわたり生活を続けており,原告の生活の基盤は本邦にあり,本邦との結び付きは強いこと,〔2〕原告にとって頼ることのできる親族は全て本邦に住んでおり,原告がペルーに退去強制された場合には路頭に迷うことになることなどを挙げ,原告には在留特別許可が付与されるべき事情があると主張する。

 しかし,上記〔1〕の点については,原告が本邦に入国した平成15年9月30日から本件裁決がされた平成23年8月15日までの約8年間の在留期間のうち,強盗,強盗致傷,窃盗により平成19年11月20日に逮捕されて以降は,本件裁決時まで身柄拘束中であることが認められるから(乙5[7頁]),原告が本邦内で平穏に長期間生活し本邦に定着していたとはいえないし,原告の叔父や兄などの親族が本邦に居住していることから直ちに原告の生活基盤が本邦にあるとも,原告と本邦との結び付きが強いともいえない。

 次に,上記〔2〕の点については,原告はペルーで出生してから17歳まで生活し,ペルーの公用語であるスペイン語を自由に使用することができる上(乙5[1頁],7[1頁]),本邦でも稼働経験を有する稼働能力のある成人男性であるから,ペルーで稼働して自らの生活を維持することが困難であるとは考え難い。そして,確かに,原告が主張するように原告の親族の多くが本邦に居住していることが認められるが,その一方で,ペルーには原告の両親と妹に加えて母方の親族である叔母3人が居住している上,そのうち一人は,過去に原告に対して金銭面の援助をしたことがあることが認められるから(乙5[17頁],原告本人[1頁]),原告がペルーに退去強制された場合には,これらの親族から一定の援助や協力を受けることも期待することができる。

 以上の各認定事実によれば,原告がペルーに帰国して生活することにつき特段の支障があるとはいえない(なお,原告がペルーで就職することに多少の困難が伴うとしても,国民の就職状況の改善は,第一次的には国籍国の責任において対処すべきことであり,我が国の法務大臣等が在留特別許可をするか否かの判断をする際,当該外国人の送還先の労働市場の状況等に照らし,容易に職を得ることができるか否かについてまで考慮すべきであるとはいえない。)。

ケース5

平成25年 1月 23日

東京地裁

平成23年(行ウ)第650号 ×

(3)その他の事情について

 前提事実及び証拠(甲16,乙1,3,5,6,8,原告本人)によれば,〔1〕原告は,本国であるフィリピンで生まれ育ち,母国語であるタガログ語も何不自由なく使用することができ,大学で電子工学を学ぶなどし,同大学を中退した後は様々な業務に従事して就労するなど,平成10年1月22日に本邦に入国するまではフィリピンで生活を営んできた者であること(なお,原告は,平成7年6月5日から平成8年6月2日までの間,「研修」の在留資格をもって本邦に在留し,太平電業において研修していたことがある。),〔2〕原告には,現在も稼働する能力があること,〔3〕原告には,その本人尋問が平成24年7月25日にされた時点で,フィリピンに少なくとも両親及び弟並びにフィリピン人女性との間の2人の子のうちの1人が居住しており,継続的に本国に送金し,原告の母の治療費を賄っていたほか,電話で連絡を取るなど,家族との交流も継続していることが認められること,〔4〕妻であるP6は,フィリピンの国籍を有するいわゆる同郷人である上,本邦との行き来を法的に妨げる事情の存在をうかがわせる証拠は見当たらないことを考慮すると,原告がフィリピンに帰国したとしても,その生活に著しい支障があるとは認め難い。

 なお,原告は,平成21年から夫婦同然の共同生活を送ってきたP6と引き裂かれて生活に支障が生じないはずがないし,P6の体調が退去強制手続に係る収容中に著しく悪化したから,強制退去となれば,原告にとって,身体的にも肉体的にも酷な結果が生ずることは明らかであるなどと主張する。しかし,P6の体調については,関係する証拠(甲12の1ないし9,13の1ないし5,16,29,乙8,11,証人P6,原告本人)によっても,本件裁決がされた当時において,いわゆる持病であるぜん息,胃の不調及び従事する製本関係の業務に関連してとみられる手足等の痛みにより,通院をして投薬を受けていたものと認められるにとどまり,退去強制により「P6と引き裂かれる」という点についても,不法残留及び不法就労をすることを自ら選択したことの結果であって,上記主張は,本件の結論を左右するようなものとはいい難い。


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