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代表弁護士 小川敦也

ケース1:日系人の要保護性を否定した事案

平成25年 2月 28日

東京地裁

平成24年(行ウ)第600号 ×

イ 本邦における身上,家族関係等
(ア)本邦には,原告のきょうだいが4名,姪が1名在住しているが,いずれも手紙のやり取り等程度の交流にとどまり,本件全証拠を見ても,原告がこれらの者と同居して,その生活を支えている関係にあるとは認められない。

 また,原告は,原告の妻子が来日予定であったと主張しているが,そもそも,原告の妻子が本邦に来日する必要性に関する事情は,本件全証拠を見てもうかがわれず,本件裁決時には,原告の妻子はそれまでペルーで生活しており,本邦で生活した経験もなかったのであるから,上記の一事のみをもって,原告が本邦に滞在することの必要性を基礎付ける事情とはなり得ない(仮に,原告の妻子において,今後,何らかの在留資格を取得して本邦に入国し継続的に滞在する必要があったとしても,原告の妻子が,時機を見てペルーに帰国したり,電話等の通信手段によって連絡を取ることにより,原告との交流を保つことは十分可能である。)。

(イ)なお,原告は,原告が日系2世であることは,本邦との強いつながりを示す事情であると主張しているが,日系人であっても,日本国籍を有しないことには変わりがない上,入管法24条各号所定の事由に該当する以上,退去強制手続の対象となることにつき他の外国人と違いはなく,同法上,退去強制の局面において,日系人であることを理由として特別の法的保護を与える根拠となる規定は存しないのであって(同法50条1項2号参照),平成18年改正後の平成2年法務省告示第132号(同法7条1項2号の規定に基づき定められているもの)において,日系人について,同告示に基づき「定住者」の在留資格を取得するための要件に「素行が善良であるもの」が追加された趣旨に照らしても,現に素行が著しく不良である以上,日系人であることの一事をもって,入管法上,在留特別許可の許否の判断において特別の考慮をされ得る事情となるものということはできない。

ケース2:日系人の要保護性を否定した事案

平成25年 2月 21日

東京地裁

平成24年(行ウ)第292号 ×

イ 原告が日系人であることについて
(ア)原告は,本件裁決が違法であることの根拠として,〔1〕原告が日系人であることを看過していること,〔2〕本件定住者告示の改正により日系三世に定住者の在留資格が認められるためには「素行が善良であるもの」との制限が付加されたところ,この素行善良要件は,南米出身の日系三世を人種差別的に扱う法制度を永続化するものであるから,憲法14条1項及び人種差別撤廃条約に反し違法であり,本件定住者告示を適用してされた本件裁決は,裁量権の範囲を逸脱し,又はその濫用にわたるものとして違法である旨の主張をする。

 しかし,上記〔1〕の点については,日系人であっても,日本国籍を有しない外国人であることに違いはないから,入管法24条各号所定の事由に該当する以上,退去強制手続の対象となることは避けられず,同法上,退去強制の局面において,日系人であることを理由として特別の法的保護を与える根拠となる規定は存しないことによれば(同法50条1項2号参照),日系人であることの一事をもって,同法上,在留特別許可の許否の判断において特別の考慮をされ得る事情となるとはいえない。よって,上記〔1〕の点に関する原告の主張は採用することができない。

 次に,上記〔2〕の点については,本件定住者告示により素行善良要件が課されているのは南米出身の日系三世とその家族に限られないから,人種差別であることを理由として憲法14条1項及び人種差別撤廃条約に反するという原告の主張は,そもそも前提を欠くものであるし,この点をおくとしても,法務大臣が本件定住者告示の中でどのような要件を類型的に定めるかについては,入管法7条1項2号や別表第2その他関連法令を見ても手掛かりとなる規定はなく,諸般の事情を総合的に勘案して,時宜に応じた的確な判断に委ねられている性格のものであるから,日系三世一般につき素行善良要件を付加した本件定住者告示が,目的の不当性若しくは手段との不均衡又はその改正がもたらす差別的な効果により違憲かつ無効であるとされるためには,日系人及びその家族のうち素行善良要件を満たさない者について,法務大臣の個別的な判断に委ねずにあらかじめ定住者の地位を認めないものと類型的に規定を定めることとした判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められることを要するものと解される。

 このような観点から本件定住者告示の内容をみてみるに,証拠(乙28,30,31)によれば,本件定住者告示は,定住者の在留資格により本邦に居住する外国人の犯罪が増加しているとの実態を踏まえて,定住者の在留資格を付与する要件として素行善良要件を定めたものであると認められるところ,その目的には合理性が認められる上,日系人と本邦との関係,素行善良要件の内容等に照らせば「定住者」の在留資格の取得につき素行善良要件を求めることが上記目的を達成する上で不均衡があるとも,人種差別に当たるともいえない。よって,上記〔2〕の点に関する原告の主張は採用することができない。

 さらに,原告は,〔ア〕原告が犯行に至った背景には,日本とブラジルとの間の大きな環境の変化により日本社会になじめず悪い交友関係を持ったことにあり,本来適切な日本語教育や職業訓練などの適正な受入れが用意されるべきであったのにそのような施策が遅れていたという我が国の来日外国人政策の遅れがあること,〔イ〕原告は本件裁決当時可塑性に富んだいまだ23歳の若者であり,刑期を終え前科についての贖罪も終了したと言って良く,国内で更生の機会を与えることも刑事政策の重要な目的であるということができること,〔ウ〕原告のような来日外国人の若者を前科前歴の存在を専らの理由として排除することは本来の刑事処分の範囲を超えて明らかに過大な処罰を与えるものであるなどとも主張する。

 確かに,一般的に,在日外国人が本邦の地域社会への適応に支障を生じている場合,そのことが犯罪を助長する要因の一つであるということはいえるとしても,そのような環境下に置かれた全ての外国人が常に犯罪に至るわけではないし,在留する外国人に対してどのような施策を行うかは広範な裁量に委ねられているというというべきであるから,我が国の来日外国人政策の遅れをもって殊更原告に有利にしんしゃくすべき事情とはいえない。そして,本件の中で,原告は,ブラジルの裁判所で刑事裁判の被告人になっていないことを証する証明書(甲26の1及び2)を提出するが,その一方で自ら記載した文書(甲10[3頁])の中で,ブラジルにおいても強盗をし,保護観察の処分を受けたことがある旨を述べていることによれば,本邦内で罪を犯した主な原因は原告の規範意識の欠如にあり,仮に日本社会に適合できなかった事実があるとしても,そのことを原因と評価することはできないものといわざるを得ない。よって,上記〔ア〕の点に関する原告の主張は採用することができない。

 そして,原告の陳述書に記載された内容を見ると,刑務所に収容されたことにより原告の規範意識の改善が図られ,日本語能力の向上により本邦の地域社会への適応能力にも改善のきざしが生じた可能性はあり得るが,原告がした犯罪行為の悪質性に加え,本件保護観察処分による保護観察中や平成20年刑事事件判決による刑の執行猶予期間中に再び犯行を犯したことなど本件に顕れた諸般の事情に照らせば,なお,今後,原告が出入国管理行政上看過することのできない反社会的行動に至るおそれがあることは否定し難い。よって,上記〔イ〕の点に関する原告の主張は採用することができない。

 さらに,原告に係る退去強制手続は,入管法に基づく出入国管理を内容とする行政手続であり,刑罰権の行使を内容とする刑事手続ではないことは明らかであるから,原告の上記〔ウ〕の点に関する原告の主張はその前提を欠き,採用することができない。

(イ)原告は,本邦に居住する原告の叔父Vの指導監督により,原告の更生を期待することができるとも主張する。しかし,証拠(乙3[3頁])によれば,叔父Vは,平成20年刑事事件判決に係る審理の際にも情状証人として出廷し,原告を指導監督する旨の証言をしているところ,平成20年刑事事件判決の判決書(乙2[4頁])をみると,裁判官は,叔父Vや原告の兄による指導監督では十分とは言い難いとの判断をして執行猶予期間中原告を保護観察に付していることが認められるところ,原告が平成20年刑事事件判決の執行猶予期間中に窃盗及び道路交通法違反の罪を犯し平成21年刑事事件判決の宣告を受けていることは,実兄や叔父Vの指導監督が十分に機能しなかったことを端的に示す事情であるということができる。かかる過去の経緯に照らすと,叔父Vの原告に対する指導監督の実効性には疑問があるといわざるを得ず,叔父Vによる今後の原告に対する指導監督の可能性を裏付けるものとして原告が提出した証拠(甲14,21)の各内容をみても,上記認定を覆すに足りるものとはいえない。以上によれば,この点に関する原告の主張についても採用することができない。

ケース3

平成25年 2月 5日

東京地裁

平成24年(行ウ)第159号 ×

イ 本件家族との関係について

(ア)原告は,今後,P17と正式に結婚して本件家族の生活を支えていかなければならない立場にあるから,原告には在留特別許可が付与されるべきであるとの主張をする。

 しかし,入管法は,退去強制事由のある外国人に在留特別許可を付与するか否かの判断に際して,法務大臣等が特定の事項を必ず考慮しなければならないとは定めておらず,入管法その他関係法令上,定住者等の在留資格を有する外国人の家族を特別に扱うべき規定も存しない。したがって,退去強制事由のある外国人に在留資格を有して本邦に居住する外国人の家族が存することは,法務大臣等が当該外国人に対して在留を特別に許可すべきか否かを判断する際にしんしゃくされる事情の一つとはなり得るものの,それを超えて,法務大臣等の在留特別許可の許否の判断に対する法律上の制約になるとは解されない。

(イ)そして,前提事実(1)記載の事実及び証拠(乙5,17)によれば,〔1〕原告は,平成17年8月頃からP17との同居を開始し,平成19年11月20日に逮捕されるまでの間,同居を続けていたこと(乙5[7頁,23頁]),〔2〕原告は,P17との間に,P18及びP19という2人の子供をもうけていること(前提事実(1)イ(ア)),〔3〕P17は,原告が前橋刑務所に収容されていた約3年4月の間に15回にわたり原告と面会していること(乙17)などに照らすと,原告とP17は,相当程度親密な関係にあり,永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な共同生活を営むという婚姻の本質(最高裁昭和61年(オ)第260号同62年9月2日大法廷判決・民集41巻6号1423頁参照)と同視し得るような実質を有する時期があったと評価することができる。

 しかし,その一方で,〔ア〕原告とP17は,本件裁決時までに婚姻届を提出していないこと(原告本人[18頁]),〔イ〕P17は,本件裁決前の平成23年4月6日に,他の男性との間に子供をもうけていること(原告本人[20頁],弁論の全趣旨),〔ウ〕P17は,刑務所に収容されていた原告に対し,原告とは結婚することができないと述べていること(原告本人[19頁])などの本件に顕れた諸般の事情に照らすと,少なくともP17は,本件裁決までに原告との関係を継続する意思を失っていたということができ,原告とP17との内縁関係は,本件裁決当時には既に破綻した状態にあったものと認められる(なお,原告とP17との内縁関係が本件裁決時に既に破綻していたことについては,本件裁決後の事情であるが,P17が東京入管入国審査官に対して原告との結婚は考えていない旨述べていること(乙16)からも明らかであるということができる。)。

 以上によれば,原告とP17の関係は,原告に対する在留特別許可の付与の判断に当たって,原告に殊更有利にしんしゃくすべき事情であるとはいえない。

 次に,原告と本件子供らとの関係についてみるに,証拠(乙5[20頁])及び弁論の全趣旨によれば,本件子供らは,本件裁決時から現在まで,P17の父親によって扶養されており,その生活に特段の支障が生じているとはうかがわれない上,上記認定のとおり,P17は,現在,原告との結婚を考えていないというのであるから,原告が本邦で本件子供らを養育することが必要不可欠であるとはいえない。

 また,本件子供らを養育しているP17の父親が現在がんに罹患していることについては,当該事実を認定するに足りる証拠は存しない上,仮にそのことが事実であったとしても,本件子供らの監護養育について支障が生じていることとはうかがわれないから,当該事実が原告に対して在留特別許可を付与すべき事情に当たるとはいえない。

(ウ)そして,原告がペルーに退去強制された場合には,原告と本件家族は一時的に別居を強いられることになるものの,前記のとおり,P17は,原告との結婚を考えていないというのであるから,原告とP17との関係は,原告がペルーに退去強制されることの支障とはならないし,この点をおくとしても,P17は,原告と同様にペルー国籍を有していることが認められるから(甲10の1ないし甲11の2,乙1),仮に,原告が主張するようにP17が原告と結婚する意思を有しているとしても,ペルーで同居することにより夫婦としての関係を維持することに法律上の支障はないということができる。また,同様に,前提事実(1)イ(ウ)記載のとおり,本件子供らもペルー国籍を有していることが認められるから,本件子供らをペルーに呼び寄せることにより,原告と本件子供らが同居して共同生活を営むことについても法律上の支障は存しない。

 さらに,退去強制により原告のみがペルーに居住することとなった場合でも,通信・交通手段の発達した現在では,原告と本件家族が電話やインターネット等を通じて意思の疎通を図ったり,生活費を送金したりするなどして相互に援助し合うことや,本件家族が定期的にペルーを訪問して原告と会うことにより家族としての交流を図り,その関係を維持することは一般に可能であるから,原告がペルーに退去強制されることにより原告と本件家族の関係が恒久的に破壊されるとはいえない。

裁判例4

平成25年 1月31日

東京地裁

平成23年(行ウ)第759号 ×

イ 本邦における身上及び生活の状況

 前記2(2)イ(ウ)記載のとおり,原告P1は,本邦において,P4と婚姻し,原告P2と原告P3をもうけており,土地付きの家屋を所有して家族と共に生活し,また,前記2(2)イ(イ)c記載のとおり,定職にも就いていた。原告P2は,一定程度本邦での生活になじんでいることがうかがわれ,原告P3は,永住者の許可を受けている。

 しかしながら,前記2(2)ウ記載のとおり,原告P1は,本邦での居住期間の長さにもかかわらず,いまだ日本語の読み書きはできない。

 前記2(2)イ(ウ)g記載のとおり,P4及び原告P2は,退去強制処分を受けており,現在,仮放免の許可を受けている状態にすぎず,本邦で安定した生活を営んでいるといえるとはいえない。永住者の在留資格を有している原告P3も幼児であることからすれば,原告P1らと離れて考えた場合,敢えて本邦にとどまる必要性は高くはないというべきである。

ウ 本国における身上及び生活に係る事情

 前記2(2)ア及びウ記載のとおり,原告P1は,ガーナで生まれ育っており,ガーナの言語の一つであるアカン語を母国語としている。ガーナ及び日本での就労経験からして,原告P1が稼働能力を有することは明らかである。また,原告P1のきょうだいは皆ガーナに居住しており,長兄とは定期的に連絡を取っている。

 さらに,原告P1と本国にいる複数の女性との間の5人の子供もいずれもガーナに居住し,原告P1と5人の子供との間には交流もある。

エ 小括

 以上の検討を踏まえ,原告P1の本邦における入国・在留の状況・態様等,本邦における身上及び生活の状況,本国における身上及び生活に係る事情等を総合考慮すると,原告P1に対し在留特別許可を付与しなかった本件裁決が,全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,東京入管局長に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用をしてされたものとは認め難いというべきである。


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