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代表弁護士 小川敦也

裁判例1:

平成19年 3月 30日

大阪地裁

平成19年(行ク)第1号 

「本案について理由がないとみえるとき」(行訴法25条4項)に該当するか否かについて

(1)前記認定事実のとおり,申立人が本件更新不許可処分の取消しの訴えを提起していないことに加え,本案に係る申立人の主張内容に照らしても,本件において,申立人が入管法24条4号ロ(不法残留)の要件に該当することについては,争いがないということができる。もっとも,法務大臣は,外国人に退去強制事由があり,かつ,出国命令対象者に該当せず,入管法49条1項に基づく異議の申出が理由がないと認める場合でも,当該外国人に特別に在留を許可すべき事情があると認めるときは,その在留を特別に許可することができるとされている(入管法50条1項4号)。そして,在留特別許可を付与しないとの法務大臣の判断は,それが全く事実の基礎を欠き,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くことなどにより,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるような場合には,裁量権の範囲を超え,又はその濫用があったものとして違法となるものというべきであり,この理は,法務大臣から権限の委任を受けた入国管理局長が裁決する場合においても異ならない。そこで,大阪入国管理局長が申立人に対して在留特別許可を付与しなかった判断につき裁量権の範囲を超え又はその濫用があったか否かについて検討する。

(2)この点について,申立人は,要旨,入管法が「日本人の配偶者等」を在留資格の一つとして定め,法務省入国管理局が平成18年10月付けで定めた在留特別許可のガイドラインにおいても家族的結合が重要視され,それが許可の積極的要素の一つとして挙げられていることに加え,憲法24条1項,市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和54年条約第7号)17条1項,同規約23条1項の趣旨を勘案すると,本件裁決の時点において申立人と北川とが結婚を決意しており,夫婦生活が継続される可能性が極めて高かったと認められる本件において,大阪入国管理局長が申立人に対して在留特別許可を付与しなかったのは裁量権の濫用,逸脱がある旨主張するとともに,申立人は,本邦において,学業に専念してきたのであり(平成17年度に履修登録をしなかったのは,精神的に不安定だったことが原因であって,勉学意欲を欠いたからではない。),申立人の堅実な就学状況に照らしても,申立人に対して在留特別許可を付与しなかった本件裁決には裁量権の濫用,逸脱があるなどと主張する。

 他方,相手方は,そもそも,婚姻の事実すらなく,単に婚姻予定者がいるという事情のみで,在留特別許可を認めなければならないものではない上,違反調査における申立人の供述等に照らせば,本件裁決当時,申立人と北川との婚姻意思が明確であり,夫婦生活が継続される可能性が極めて高かったと評価することは到底できないなどとし,本件裁決に裁量権の濫用,逸脱はなく,本件裁決は適法であるなどと主張する。

(3)そこで検討すると,確かに,記録によれば,申立人は,平成18年10月2日の入国審査官による違反調査において,在留資格を得るために結婚したと思われたくないので,同日現在,北川太郎と結婚する気がないといった趣旨の供述をしていたところ,同月18日の口頭審査においては,同月10日に北川と結婚することを決め,同月13日に婚姻届を作成した旨の供述をしたことが認められ,また,申立人と北川とが婚姻届を提出したのは,本件裁決後の同年11月24日であることが認められる。しかしながら記録に表われた申立人の北川と知り合ってから婚姻意思を固めるまでの経過に関する供述内容はそれ自体別段不自然なところはうかがわれない上,前記のとおり,北川は,ほぼ毎日,申立人に面会するために西日本センターを訪れているというのであるから,これらにかんがみると,申立人と北川との婚姻が偽装であると断じることができないことはもとより,本件裁決当時において,申立人と北川との婚姻意思が浮動的であったと直ちに認めることもできないのであって,申立人と北川とが出会ってから婚姻に至るまでの具体的経緯等について,更に審理を尽くす必要がある。

 また,申立人の同志社大学文学部英文学科における単位修得状況は,記録上既に明らかであり,これによれば,申立人は,同学科に編入学して以降,既に5年度が経過するも,いまだ卒業に必要な単位数を修得していないのみならず,前記のとおり,平成16年5月12日付け在留期間更新許可に係る期間(平成16年度及び平成17年度)については,わずかに13単位しか修得することができず,平成17年度は履修登録すらしていないというのである。しかしながら,前記のとおり,申立人は,その経緯について,平成17年ころから平成18年ころにかけて申立人は精神的に不安定な状態にあったためであるといった趣旨の主張をしているところ,申立人は,平成17年8月7日から同年9月17日まで中国に帰国して扶順市立病院でうつ病と診断されてその治療を受けていた事実が一応認められるなど,申立人の前記主張に沿う疎明資料等も存在している上,申立人は平成18年度春学期には6科目14単位を修得しているのであって,そのころ申立人が本邦において就労等その在留資格に係る活動以外の活動を専ら行っていた様子は記録上うかがわれないことをも併せ考えると,上記のような申立人の履修経過から直ちに申立人の就学意欲ないし就学態度等が著しく不良であるとか申立人が学業を継続する意思を喪失しているなどと断じることはできないのであって,申立人が平成17年度に履修登録をしなかった経緯等に加え,申立人の同学科での授業への出席状況等の就学状況,学生としての生活態度等について,更に審理を尽くす必要がある。

 さらに,前記認定事実のとおり,申立人は,違反調査等において,一貫して,本件更新不許可処分を訴訟で争う意向を示し,又は在留特別許可を希望する理由は大学を卒業したいからである旨の供述をしていたにもかかわらず,前記認定とおり,同処分の取消しの訴えに係る出訴期間中に同訴えを提起していないが,記録からは少なくとも申立人の意思に反して上記訴えに係る出訴期間が経過した経緯が認められるのであって,その経緯等の詳細についても,更に審理を尽くす必要がある。

 以上によれば,少なくとも上記の各点について,本案事件において申立人その他の関係者を尋問するなど,更に審理を尽くす必要があり,相手方の指摘するその余の事情をしんしゃくしてもなお,上記の審理が尽くされていない現段階において,申立人に在留特別許可を付与しないとした大阪入国管理局長の判断につき,裁量権の範囲を超え又はその濫用がなかったと直ちに断定することはできないから,本件令書の執行停止の申立てについて,「本案について理由がないとみえるとき」に該当するとまでいえない。


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