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代表弁護士 小川敦也

不法滞在者(オーバーステイ)家族の結合と国際人権規約

退去強制令書発付処分等取消請求訴訟においては、原告から国際人権規約違反が主張されることが少なくありません。ここで、国際人権規約とは、人権に関する多国間条約である経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約、A規約)、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約、B規約)及びその選択議定書の総称です。以下、よく主張されるA規約10条、B規約17条、23条を紹介します。

A規約第10条

 この規約の締約国は、次のことを認める。

1 できる限り広範な保護及び援助が、社会の自然かつ基礎的な単位である家族に対し、特に、家族の形成のために並びに扶養児童の養育及び教育について責任を有する間に、与えられるべきである。婚姻は、両当事者の自由な合意に基づいて成立するものでなければならない。

B規約第 17

1 何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。

2   すべての者は、1の干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。

B規約第23条

1 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する。

2 婚姻をすることができる年齢の男女が婚姻をしかつ家族を形成する権利は、認められる。

3 婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意なしには成立しない。

4 この規約の締約国は、婚姻中及び婚姻の解消の際に、婚姻に係る配偶者の権利及び責任の平等を確保するため、適当な措置をとる。その解消の場合には、児童に対する必要な保護のため、措置がとられる。

国際人権規約に関する裁判所の判断

不法滞在者(オーバーステイをしている外国人)が国外退去を強制されると、不法滞在者とその家族は引き裂かれる結果となります。そこで、このような事態が家族の結合を保護する国際人権規約に反するのではないか、在留特別許可に関する法務大臣等の裁量を左右するのかが問題となります。

 しかし、この点に関し、多くの裁判例は、「これらの条約が,外国人が本邦で在留する権利まで保障したものとは解し難く,国際慣習法上の原則を基本的に変更するものではないと解される。したがって,我が国がこれらを締結していることにより,法務大臣等の裁量権が左右されるものではないというべきである」と述べるにとどまっています。

 特に、最近の裁判例は、「通信・交通手段の発達した現在においては,原告とその家族とが●●と本邦とで離れて生活することとなったとしても,電話やインターネットを通じて意思疎通を図ったり,生活費を送金したりするなどして援助し合うことや,場合によって家族が●●を訪れることも不可能ではなく,原告を●●に退去強制したとしても,原告とその家族とが家族としての交流を図り,相互扶助の関係を維持していくことは困難ではないと考えられる。」という身も蓋もない議論を展開しており、相手方たる国もこのフレーズを引用してきます(裁判例2参照)。

 他方で、不法滞在者の(事実上の)婚姻関係の認定には非常に厳しく、(事実上の)婚姻関係の存在を認定したとしても、「成熟し、かつ安定したもの」ではなく、保護に値しないと容易に切り捨てられるので、やり切れません。

 最判昭和62年9月2日大法廷判決は、「婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにある」としています。例えば、「日本人である夫が不法滞在者である妻の生活費を負担し、お互いの家族に交流もあるが、夫が出張の多い仕事のため、半同棲のような形になっている」事案において、相手方たる国は、62年判決を引用して、これでは「婚姻」とはいえないと主張します。他方で、「夫婦が離れ離れになっても、電話やインターネットで意思疎通すればいいし、お金は送金すればいい。それで十分。」とも主張します。しかし、このような関係を「永続的に」続けることが困難であることは明らかですし、精神的・「肉体的結合」を困難にすることも明白ですので、首肯し得ません。

福岡高裁平成17年3月7日

 もっとも、マクリーン判決の考えを踏襲しながらも、「憲法98条1,2項(条約・国際法規の遵守)及び憲法99条(公務員の憲法尊重擁護義務)によれば,我が国の公務員は,このような国際人権条約(B規約や児童の権利条約)の精神やその趣旨(家族の結合の擁護や児童の最善の利益の保障)を誠実に遵守し,尊重する義務を負う。したがって,当該外国人に在留特別許可を付与するか否かを判断するに当たって,被控訴人法務大臣は,国際人権条約(B規約や児童の権利条約)の精神やその趣旨を重要な要素として考慮しなければならない。」と述べた裁判例もあります。

A規約10条1項,B規約23条1項違反に関する判断:裁判例1

平成24年 7月26日

東京地裁

平成23年(行ウ)第244号 ×

 なお,原告は,原告と子らを離散させることは子らの養育に重大な影響を及ぼすものであり,国際人権A規約10条1項,国際人権B規約23条1項に違反する旨主張する。しかしながら,上記(1)イのとおり,憲法上,外国人は,本邦に在留する権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されているものではなく,入管法に基づく外国人在留制度の枠内でのみ本邦に在留し得る地位及びその在留に伴う利益を享受する権利を認められているにすぎない。また,国際人権A規約及び国際人権B規約は,いずれも国際慣習法上の原則を排斥する旨を規定していないこと(国際人権B規約13条は,法律に基づいて行われた決定によって外国人を追放することを認めており,上記国際慣習法上の原則を前提としているものと解される。)に照らすと,外国人の在留を認めるか否かにつき主権国家の広範な裁量を認めた国際慣習法上の原則を所与の前提とするものであり,この原則を変更するものとは解されない上,国際人権A規約は,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではなく,国際人権B規約の規定が保護の対象として掲げる家族関係の保護は,入管法に基づく外国人在留制度の枠内で保護されるにとどまるといわざるを得ないから,上記条約の規定によって,外国人の在留の許否を決する国家の裁量が,上記(1)イにおいて検討した以上に制約を受けるものではない。したがって,原告の主張は独自の主張であって採用することはできない。

B規約17条1項・23条1項に関する判断:裁判例2

平成24年 6月12日

東京地裁

平成22年(行ウ)第666号 ×

(エ)原告は,本件裁決は,国際人権B規約17条1項及び23条1項に反し,憲法98条2項にも違反する旨主張する。しかしながら,上記(1)イのとおり,憲法上,外国人は,本邦に在留する権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されているものではなく,入管法に基づく外国人在留制度の枠内でのみ本邦に在留し得る地位及びその在留に伴う利益を享受する権利を認められているにすぎない。また,国際人権B規約は,国際慣習法上の原則を排斥する旨を規定しておらず,むしろ,外国人について法律に基づく退去強制手続を執ることを容認していること(13条第1文)に照らすと,外国人の在留を認めるか否かにつき主権国家の広範な裁量を認めた国際慣習法上の原則を所与の前提とするものであり,この原則を変更するものとは解されない以上,上記条約の規定が保護の対象として掲げる家族関係の保護は,入管法に基づく外国人在留制度の枠内で保護されるにとどまるといわざるを得ないから,上記条約の規定によって,外国人の在留の許否を決する国家の裁量が,上記(1)イにおいて検討した以上に制約を受けるものではなく,本件裁決が国際人権B規約及び憲法98条2項に違反するものということはできない。また,原告とpの親族との関係についてみても,原告は義姉,義弟と同居しているわけでもないから,原告が本邦に在留しなければpの親族がその生活を維持できなくなるなどという事情にはないし,通信・交通手段の発達した現在においては,原告とpの親族とが中国と本邦とで離れて生活することとなったとしても,電話やインターネットを通じて意思疎通を図ったり,生活費を送金したりするなどして援助し合うことや,場合によってpの親族が中国を訪れることも不可能ではなく,原告を中国に退去強制したとしても,原告とpの親族とが家族としての交流を図り,相互扶助の関係を維持していくことは困難ではないと考えられる。

B規約17条1項・23条1項に関する判断:裁判例3

平成24年 5月 9日

東京地裁

平成23年(行ウ)第347号 ×

なお,原告は,本件裁決について,婚姻関係等の保護を要請する憲法24条並びにB規約17条及び23条に反する旨も主張するが,外国人に対する憲法の基本的人権の保障は,外国人の在留制度の枠内で与えられているものであって(前掲昭和53年10月4日大法廷判決参照),また,退去強制手続を許容しているB規約(B規約13条参照)も,憲法と同様の考え方を基礎とするものであると解されることに照らせば,退去強制事由のある外国人の婚姻関係等は,既に述べたとおり,法務大臣等が当該外国人に対して特別に在留を許可すべきか否かの判断をする際にしんしゃくされ得る事情の一つにとどまり,前記(1)のような裁量権の行使に対する制約とはならないというべきである。原告の上記主張は,独自の見解を述べるものにすぎず,採用することができない。

B規約、児童の権利条約に関する判断:裁判例4

平成25年 1月31日

東京地裁

平成23年(行ウ)第759号 ×

ア B規約,児童の権利条約及び憲法との関係

 原告P1は,本件裁決及び本件退令処分が,B規約,児童の権利条約及び憲法に反するなどと主張する。

 しかしながら,前記(1)イ記載のとおり,国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,これを受入れる場合にいかなる条件を付するかを当該国家が自由に決定することができるものとされており,B規約や児童の権利条約も,この国際慣習法上の原則を排斥する旨を規定しておらず,むしろ,外国人について法律に基づく退去強制手続を執ることを容認していること(B規約13条第1文)や父母の一方若しくは双方又は児童の退去強制の措置に基づいて父母と児童とが分離されることがあることを予定していること(児童の権利条約9条4項)に照らすと,B規約や児童の権利条約が考慮の対象として掲げる利益についても,入管法に基づく外国人在留制度の枠内で保障されるにとどまると解される。そして,憲法上,外国人は,本邦に在留する権利ないし引き続き本邦に在留することを要求し得る権利を保障されているものでもなく,入管法に基づく外国人在留制度の枠内においてのみ本邦に在留し得る地位を認められており,在留特別許可を付与しないという判断が違法となるのは,法務大臣等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合に限られるというべきところ,前記(2)及び(3)で認定したとおり,本件裁決が裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たらない以上,本件裁決及び本件退令処分がB規約,児童の権利条約及び憲法に反するなどとは認められない。

婚姻の本質について述べた最高裁判例(参照)

昭和62年 9月 2日

最高裁大法廷

昭和61年(オ)第260号

 思うに、婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにある・・・・


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