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代表弁護士 小川敦也

訴えの利益とは

勝訴判決を得ても原告の救済にとって無意味である場合、(狭義の)訴えの利益がないとされ、訴えは却下されます。訴えの利益の有無の判断基準は判決言い渡し時となります。

訴えの利益が認められない場合

 訴えの利益が認められない場合としては、行政庁による救済がなされた場合、処分等の執行による消滅などがあります。入管事案(オーバーステイ・不法滞在)においては、収容された不法滞在者が既に自国へ帰国してしまったような場合が想定されます。東京高裁平成19年5月16日判決(平成18(行コ)第264号)は、「入管法5条1項9号ロ及びハは,入管法24条各号(4号オからヨまで及び4号の3を除く。)のいずれかに該当して本邦からの退去を強制された者について,退去した日から5年又は10年を経過しないと本邦に上陸することができないものと定めている。そうすると,退去強制令書の発付を受け,既に本邦から退去した者であっても,上記期間内における本邦への上陸を拒否されないためには,少なくとも有効なものとして存在する退去強制令書発付処分を取り消す必要があり,これを取り消す法的利益があるというべきである。」として、訴えの利益を認めています。

不法滞在事案において訴えの利益が争われたケース

平成19年 5月16日

東京高裁

平成18年(行コ)第264号 ×

1 本件裁決の取消しを求める訴えの適法性について

(1)行政事件訴訟法に定める行政庁の処分の取消しの訴えは,その処分によって違法に自己の権利又は法律上保護されている利益の侵害を受けた者がその処分の取消しによって当該法益を回復することを目的とする訴えであり,同法9条が処分の取消しを求めるについての法律上の利益といっているのも,このような法益の回復を指すものである。換言すれば,違法な行政庁の処分がされ,そのために個人の権利ないし法律上保護されている利益が侵害されている場合に,その被害者からの訴えに基づいて当該処分を取消し,その判決の効果によってその権利ないし法律上保護されている利益に対する侵害状態を解消させ,その法益の全部又は一部を回復させることが行政庁の処分の取消訴訟の目的である。したがって,そのような法益の回復の可能性が存する限り,たとえその回復が十全のものでなくとも,なお取消訴訟の利益が肯定されるが,このような回復の可能性が皆無となった場合には,その利益を欠くに至ったものとしなければならない(最高裁昭和51年(行ツ)第24号同57年4月8日第一小法廷判決・民集36巻4号594頁)。

(2)ところで,法務大臣の異議の申出に理由がない旨の裁決が判決によって取り消された場合を考えると,法務大臣等は,当該取消判決の拘束力により,特別審理官の判定に対する異議を認めなかった点に違法があるとの理由によるときは,その理由の趣旨に従って異議を再度審査して改めて裁決をすべきことになるし,在留特別許可を付与しなかった点に違法があるとの理由によるときは,同様に在留特別許可を付与すべきか否かを改めて判断すべきことになる。

 そして,当該外国人は,判定に対する異議を認める旨の裁決がされた場合には,収容令書に基づく収容から放免され(入管法49条4項),国外への退去を強制されないという法的利益を受けることになるし,在留特別許可を付与された場合には,収容から放免された上(入管法50条3項),退去強制されることなく,一定期間適法に本邦に在留することができる法律上の地位が認められるという法的利益を受けることになる。

(3)本件において,本件裁決を取り消すことにより,控訴人が上記のような法的利益を受ける余地があるか否かにつき検討すると,控訴人は,平成17年8月29日,パキスタンに向けて出国しており,現在,収容されていることもなければ,本邦に在留している事実もない。そうすると,仮に本件裁決が取り消されたとしても,控訴人が,収容から放免され,国外への退去を強制されないという法的利益を受ける余地がないことは明らかである。また,在留特別許可とは,異議の申出が理由がないと認める場合でも,入管法50条1項各号所定の事由があるとき,その在留を特別に許可するものであって(その結果,退去強制はされなくなる。),異議を申し出た外国人が本邦に在留していることを当然の前提とするものであると解されるから,本邦から既に出国している控訴人が在留特別許可の付与という法的利益を受ける余地のないことも明らかである。

(4)もっとも,入管法5条1項9号ロ及びハは,入管法24条各号(4号オからヨまで及び4号の3を除く。)のいずれかに該当して本邦からの退去を強制された者について,退去した日から5年又は10年を経過しないと本邦に上陸することができないものと定めている。そうすると,退去強制令書の発付を受け,既に本邦から退去した者であっても,上記期間内における本邦への上陸を拒否されないためには,少なくとも有効なものとして存在する退去強制令書発付処分を取り消す必要があり,これを取り消す法的利益があるというべきである。

 そして,退去強制に向けては,入国審査官の退去強制事由該当認定,それに対する異議申出,法務大臣の裁決といった一連の手続を踏み,退去強制令書の発付に至るところ,一般に,退去強制を争う者が,このような退去強制という目的を追及する一連の過程のどの処分を対象に取消訴訟を提起するか,退去強制令書の発付処分のみを対象とするか(なお,上記の一連の過程でされる処分は,退去強制という同一目的を追及する手段と結果の関係をなし,これらが相結合して一つの効果を完成する一連の行為をなすものであるから,退去強制令書の発付処分の取消訴訟においては,いわゆる違法性の承継があり,その前提となる処分の違法も主張できると解される。)、その前の段階の処分も併せて取消しを求めるか等は,一般に,退去強制を争う者の側の選択にゆだねられているところであり,上記のように,退去強制令書発付処分の取消訴訟においては,その前提となる法務大臣の裁決の違法をも争うことができるのであるが(そして,法務大臣の裁決が違法で,その結果退去強制令書発付処分を取り消す旨の判決がされると,その拘束力は関係行政庁である法務大臣にも及ぶ(行政事件訴訟法33条)。),法務大臣の裁決と退去強制令書発付処分とを併せて訴えることも許される(すなわち訴えの利益がある)と解されているところである(また,たとえば入国審査官の退去強制事由該当認定(これも行政処分に当たる。)の取消しと退去強制令書発付処分の取消しも,併せて求めることができると解される。)。この解釈は,本件のように,国外への退去を強制されない,ないし在留特別許可を付与されるという法的利益を受ける余地はもはやないものの,一定期間本邦への上陸を拒否されるという効果を受けないようにするという法的利益のため退去強制を争う必要がある場合においても妥当するというべきであり,本件退令処分の取消しを求めるほか,裁決固有の瑕疵を主張して端的に本件裁決の取消しを求めることも,その訴えの利益がないとはいえないというべきである。


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