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アライアンス法律事務所

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代表弁護士 小川敦也

ケース1:執行猶予期間経過1年後の窃盗罪

平成25年 2月 28日

東京地裁

平成24年(行ウ)第600号 ×

ア 原告の在留の状況について
(ア)前提事実及び証拠(乙2,4,11)によれば,〔1〕原告は,平成19年8月20日に覚せい剤取締法違反の罪により本件保護観察処分を受けたこと(前提事実(2)ア(エ)),〔2〕原告は,本件保護観察処分を受けた直後の同年9月頃から,覚せい剤等の規制薬物を密売する組織の中で客引きとして規制薬物の密売に関与したこと(乙11[4頁]),〔3〕原告は,覚せい剤及び麻薬を所持していたという被疑事実により逮捕され,覚せい剤取締法違反,麻薬及び向精神薬取締法違反の罪により平成20年3月5日に懲役2年の有罪判決(平成20年刑事事件判決)の宣告を受けたこと(乙2[3頁])が認められる。

ケース2:日系人の要保護性を否定した事案

平成25年 2月 21日

東京地裁

平成24年(行ウ)第292号 ×

ア 原告の在留の状況について

(ア)前提事実及び証拠(乙2,4,11)によれば,〔1〕原告は,平成19年8月20日に覚せい剤取締法違反の罪により本件保護観察処分を受けたこと(前提事実(2)ア(エ)),〔2〕原告は,本件保護観察処分を受けた直後の同年9月頃から,覚せい剤等の規制薬物を密売する組織の中で客引きとして規制薬物の密売に関与したこと(乙11[4頁]),〔3〕原告は,覚せい剤及び麻薬を所持していたという被疑事実により逮捕され,覚せい剤取締法違反,麻薬及び向精神薬取締法違反の罪により平成20年3月5日に懲役2年の有罪判決(平成20年刑事事件判決)の宣告を受けたこと(乙2[3頁])が認められる。

 入管法が,覚せい剤等の規制薬物に関する取締法令に違反して有罪の判決を受けた外国人を退去強制の対象とし(同法24条4号チ),覚せい剤等の取締りに関する日本国又は外国の法令に違反して懲役等の刑に処せられたことのある外国人の本邦への上陸を認めない(同法5条1項5号)こととしている趣旨は,覚せい剤等の規制薬物は,単に使用者に対して薬物中毒をもたらすにとどまらず,社会全般に対して深刻な問題を引き起こすことを考慮したからであると解される。このような入管法の趣旨に照らすと,麻薬密売組織の中で覚せい剤等の密売に関与していた原告の行為は極めて悪質であり,公正な出入国管理の観点から看過し得ないものであると評価されることは当然であるということができる。

 これに対し,原告は,原告がした規制薬物に係る各犯罪はいずれも未熟であった少年時代にされたものであり,懲役刑に服したことにより実質的にも反省を深めているから,本邦内で生活することで更生を期待できるなどと主張し,陳述書(甲32[2枚目])の中でも同趣旨の供述をする。しかし,原告が平成20年刑事事件判決に係る罪を犯したのは18歳時であり(乙4),その年齢に照らすと善悪の判断は十分に可能であったと考えられるから,原告が上記犯行時少年であったことがその刑事責任を著しく軽減させる事情に当たるということは困難である。この点をおくとしても,先に説示したとおり,原告は,覚せい剤取締法違反の罪により本件保護観察処分を受けることにより更生の機会を与えられていたにもかかわらず,処分を受けた直後から麻薬密売組織の中で規制薬物の拡散に加担していたというのであるから,原告と規制薬物との親和性は相当強く,これらの事情に照らすと原告が平成20年刑事事件判決に係る犯行時に少年であったことをもって原告に有利にしんしゃくすることは相当であるとはいえない。

(イ)また,原告は,平成20年刑事事件判決の執行猶予期間中である平成20年9月1日に窃盗及び道路交通法違反(無免許運転)の罪を犯し,懲役1年2月の有罪判決(平成21年刑事事件判決)の宣告を受けているところ(前提事実(2)ア(キ)),平成20年刑事事件判決を宣告した裁判所が,当時未成年であった原告の更生の意欲に期待して執行猶予付きの判決を宣告したと考えられるにもかかわらず(乙2[4頁]),原告は,この更生の期待を裏切り,平成20年刑事事件判決の宣告日からわずか半年後に再び平成21年刑事事件判決に係る犯行を実行して平成21年刑事事件判決を受けている。そして,その犯行態様も,車の窓ガラスをドライバーで割り,車内のカーナビゲーション等を取り外して持ち去るという悪質なものである上,犯行に至った動機についても酌むべき事情は見当たらない(乙3)。さらに,原告は,無免許であるにもかかわらず友人から車を購入し,常習的に無免許運転を繰り返していたこと(甲10[4頁])や,平成21年刑事事件判決に係る窃盗行為以外にも窃盗行為を常習的に実行していること(乙6[9頁])もうかがわれる。

 これらの原告がした一連の行動に照らすと,原告は本邦の法律を遵守して生活する意思を著しく欠くものと評価せざるを得ない(なお,原告は,平成21年刑事事件判決に係る犯行についても,原告が少年時に実行されたものであることを原告に有利にしんしゃくすべき旨の主張をするが,上記で認定した犯行態様の悪質性に加えて,平成20年刑事事件判決による刑の執行猶予期間中にされた犯行であること等に照らすと,少年時に実行された行為であることをもって殊更原告に有利にしんしゃくすることは相当とはいえない。)。

(ウ)上記(ア)及び(イ)で認定した各事実によれば,原告の本邦での在留状況は,我が国の出入国管理政策の観点からみて極めて悪質であり,原告が主張する各事情を最大限考慮しても,このような原告の在留状況の悪質性は,原告に対して在留特別許可を付与するか否かの判断において極めて大きな消極要素として評価されてもやむを得ないということができる。

イ 原告が日系人であることについて

(ア)・・・

 次に,上記〔2〕の点については,本件定住者告示により素行善良要件が課されているのは南米出身の日系三世とその家族に限られないから,人種差別であることを理由として憲法14条1項及び人種差別撤廃条約に反するという原告の主張は,そもそも前提を欠くものであるし,この点をおくとしても,法務大臣が本件定住者告示の中でどのような要件を類型的に定めるかについては,入管法7条1項2号や別表第2その他関連法令を見ても手掛かりとなる規定はなく,諸般の事情を総合的に勘案して,時宜に応じた的確な判断に委ねられている性格のものであるから,日系三世一般につき素行善良要件を付加した本件定住者告示が,目的の不当性若しくは手段との不均衡又はその改正がもたらす差別的な効果により違憲かつ無効であるとされるためには,日系人及びその家族のうち素行善良要件を満たさない者について,法務大臣の個別的な判断に委ねずにあらかじめ定住者の地位を認めないものと類型的に規定を定めることとした判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められることを要するものと解される。

 このような観点から本件定住者告示の内容をみてみるに,証拠(乙28,30,31)によれば,本件定住者告示は,定住者の在留資格により本邦に居住する外国人の犯罪が増加しているとの実態を踏まえて,定住者の在留資格を付与する要件として素行善良要件を定めたものであると認められるところ,その目的には合理性が認められる上,日系人と本邦との関係,素行善良要件の内容等に照らせば「定住者」の在留資格の取得につき素行善良要件を求めることが上記目的を達成する上で不均衡があるとも,人種差別に当たるともいえない。よって,上記〔2〕の点に関する原告の主張は採用することができない。

 さらに,原告は,〔ア〕原告が犯行に至った背景には,日本とブラジルとの間の大きな環境の変化により日本社会になじめず悪い交友関係を持ったことにあり,本来適切な日本語教育や職業訓練などの適正な受入れが用意されるべきであったのにそのような施策が遅れていたという我が国の来日外国人政策の遅れがあること,〔イ〕原告は本件裁決当時可塑性に富んだいまだ23歳の若者であり,刑期を終え前科についての贖罪も終了したと言って良く,国内で更生の機会を与えることも刑事政策の重要な目的であるということができること,〔ウ〕原告のような来日外国人の若者を前科前歴の存在を専らの理由として排除することは本来の刑事処分の範囲を超えて明らかに過大な処罰を与えるものであるなどとも主張する。

 確かに,一般的に,在日外国人が本邦の地域社会への適応に支障を生じている場合,そのことが犯罪を助長する要因の一つであるということはいえるとしても,そのような環境下に置かれた全ての外国人が常に犯罪に至るわけではないし,在留する外国人に対してどのような施策を行うかは広範な裁量に委ねられているというというべきであるから,我が国の来日外国人政策の遅れをもって殊更原告に有利にしんしゃくすべき事情とはいえない。そして,本件の中で,原告は,ブラジルの裁判所で刑事裁判の被告人になっていないことを証する証明書(甲26の1及び2)を提出するが,その一方で自ら記載した文書(甲10[3頁])の中で,ブラジルにおいても強盗をし,保護観察の処分を受けたことがある旨を述べていることによれば,本邦内で罪を犯した主な原因は原告の規範意識の欠如にあり,仮に日本社会に適合できなかった事実があるとしても,そのことを原因と評価することはできないものといわざるを得ない。よって,上記〔ア〕の点に関する原告の主張は採用することができない。

 そして,原告の陳述書に記載された内容を見ると,刑務所に収容されたことにより原告の規範意識の改善が図られ,日本語能力の向上により本邦の地域社会への適応能力にも改善のきざしが生じた可能性はあり得るが,原告がした犯罪行為の悪質性に加え,本件保護観察処分による保護観察中や平成20年刑事事件判決による刑の執行猶予期間中に再び犯行を犯したことなど本件に顕れた諸般の事情に照らせば,なお,今後,原告が出入国管理行政上看過することのできない反社会的行動に至るおそれがあることは否定し難い。よって,上記〔イ〕の点に関する原告の主張は採用することができない。

 さらに,原告に係る退去強制手続は,入管法に基づく出入国管理を内容とする行政手続であり,刑罰権の行使を内容とする刑事手続ではないことは明らかであるから,原告の上記〔ウ〕の点に関する原告の主張はその前提を欠き,採用することができない。

(イ)原告は,本邦に居住する原告の叔父Vの指導監督により,原告の更生を期待することができるとも主張する。しかし,証拠(乙3[3頁])によれば,叔父Vは,平成20年刑事事件判決に係る審理の際にも情状証人として出廷し,原告を指導監督する旨の証言をしているところ,平成20年刑事事件判決の判決書(乙2[4頁])をみると,裁判官は,叔父Vや原告の兄による指導監督では十分とは言い難いとの判断をして執行猶予期間中原告を保護観察に付していることが認められるところ,原告が平成20年刑事事件判決の執行猶予期間中に窃盗及び道路交通法違反の罪を犯し平成21年刑事事件判決の宣告を受けていることは,実兄や叔父Vの指導監督が十分に機能しなかったことを端的に示す事情であるということができる。かかる過去の経緯に照らすと,叔父Vの原告に対する指導監督の実効性には疑問があるといわざるを得ず,叔父Vによる今後の原告に対する指導監督の可能性を裏付けるものとして原告が提出した証拠(甲14,21)の各内容をみても,上記認定を覆すに足りるものとはいえない。以上によれば,この点に関する原告の主張についても採用することができない。


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