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代表弁護士 小川敦也

裁判例1:駆け込み婚

平成25年2月27日

東京地裁

平成23年(行ウ)第539号

(3)X7との関係及び原告の妊娠について
ア 前提事実,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件裁決は平成23年7月4日付けでされたこと,原告とX7はその後の同年9月5日に婚姻を届け出たこと,原告は,平成24年7月2日に妊娠5週と診断され,出産予定日が平成25年3月2日であること(甲16,甲17,甲19ないし甲22,証人X7)が認められる。

 そうすると,原告が主張するX7との婚姻及び原告の妊娠は,いずれも本件裁決後の事情であって,これらの事情をもって本件裁決の違法性を基礎づけることはできないというべきである。また,仮に原告とX7との間に本件裁決前から原告の主張するような実質的な婚姻関係があったとしても,原告が自認するように,原告,原告母,X7及びX8は,本件裁決時までに,東京入管の職員に対し,X7との生活状況のみならず,その存在自体をあえて全く供述していなかったものである。この点をひとまずおくとしても,上記の者らの陳述書等(甲19ないし甲22,証人X7,原告本人)によっても,原告とX7との本件裁決がされるまでの同居の期間は半年程度にとどまり,かつ,X7は平成22年10月頃とされるその交際の開始後の間もない時期に原告が不法残留をしていることを認識していたというのであって(証人X7),いずれにせよ,そのことをもって本件裁決の違法性を基礎づけることはできないというべきである

イ なお,原告は,B規約23条の規定からすると,在留特別許可に係る法務大臣等の裁量権があるとしても,その裁量はおのずから限定される旨主張する。

 しかしながら,外国人は,特別の条約がない限り,国際慣習法上も我が国の憲法上も,我が国に在留する権利が保障されているものではなく,外国人を自国内に受け入れるか否か,これを受け入れる場合にいかなる条件を付すかは,国際慣習法上,当該国家が自由に決することができるというのが原則である。そして,B規約には,この国際慣習法上の原則を制限する旨の規定は存在しないばかりか,B規約13条は,合法的に滞在する外国人に対しても退去強制の措置をとり得るとしているのであるから,B規約は,前記の国際慣習法上の原則を当然の前提として,外国人の入国及び在留を制限する権限を各締結国に留保したものと解されるのであって,我が国に在留する外国人については,入管法に基づく外国人在留制度の枠内において,B規約の趣旨が考慮されるにすぎないというべきである。

 そうすると,B規約23条を根拠に法務大臣等の在留特別許可の許否に関する裁量権がおのずから制約される旨の原告の主張は,採用することができないというべきである。

ケース2:永住者との駆け込み婚

平成25年 1月 23日

東京地裁

平成23年(行ウ)第650号 ×

(2)原告らの関係及び原告とP8の関係について

 入管法が在留特別許可の許否の判断に際して特定の事項を必ず考慮しなければならない旨の規定を置いていないことや,前記1(1)に述べたような在留特別許可の許否の判断に関する法務大臣等の裁量権の性質に鑑みれば,退去強制対象者に該当する外国人に本邦に「永住者」の在留資格をもって在留する外国人の配偶者がいることや当該配偶者のいわゆる連れ子との関係は,上記の判断に際してしんしゃくされ得る事情の1つにとどまるものというべきである。

 そして,〔1〕原告ら及びP8の関係は,原告の不法残留という違法状態の上に築かれたものであること(しかも,P6は,原告と同居を開始した時点(遅くとも平成21年3月頃)以前に,原告の不法残留の事実を認識していたものである〔甲29,証人P6〕。),〔2〕原告らの婚姻の届出から本件裁決までの期間は4日にとどまっていること,〔3〕原告,P6及びP8が遅くとも平成21年3月から本件住居で同居を始めたものとしても,原告が退去強制手続において収容されるまでの同居期間は約2年であったことなどからすれば,原告らの婚姻関係及び原告とP8との関係は,東京入国管理局長において原告の在留を特別に許可すべきか否かを判断するに当たって,殊更しんしゃくしなければならない事情であったとまではいえないものというべきである。

ケース3:婚姻届出から裁決まで約8か月でも認めた例

平成29年11月29日

東京地裁

平成28年(行ウ)第130号 ○

(ア)認定事実(2)によれば,原告Aは,日本人女性の原告Bと婚姻関係を築いているところ,原告らの出会い及び交際開始の当初において原告Bには配偶者(前夫)があったものの,原告らが出会う前から原告Bと前夫とは長期間にわたりいわゆる家庭内別居の状態にあったことから,前夫の存在は原告らの交際関係の進展にとって特段妨げにはならず,そのような状況の下,原告らは真摯な交際を経て,自然な愛情に基づいて婚姻意思を形成し,婚姻するに至ったことが認められ,原告らの関係が,原告Bと前夫との間の二人の子らに歓迎ないし祝福されていること(甲15,22)も認められる。そして,原告らが互いへの愛情によって結び付いた関係にあることは,本件裁決後の事情ではあるものの,退去強制令書の執行による原告Aの収容時に原告Bが頻回に面会に訪れていること,本件訴訟の尋問時において,原告Bが,自身にとっての原告Aの存在の重要性を語り,原告Aへの愛情を表現していること(原告B本人・7~9頁,26頁),原告Aも原告Bへの愛情を率直に表現していること(原告A本人・5頁)などから明らかである。

 これらの事情に照らせば,原告らの婚姻関係は,婚姻の届出から本件裁決まで約8か月余りの期間にとどまり,原告らの間に子がいないとしても,本件裁決の時点において既に,真摯で安定かつ成熟した婚姻関係であると評価すべき素地が十分にあったものと認められる。

 

 しかるに,被告が答弁書において「原告Aの原告Bとの婚姻理由は本邦での在留資格取得目的であるとも考えられ,原告Aは原告Bと結婚し入管に出頭すれば,在留特別許可が付与されることを期待して,原告Bに執拗に結婚を申込み,原告Bも原告Aの目的を承知の上で,その目的に加担して,結婚準備に着手し,婚姻したものであることが強く疑われる」(答弁書24頁)と主張していることに照らせば,裁決行政庁は,既に真摯で安定かつ成熟した婚姻関係が形成されていたと評価すべき素地があったにもかかわらずこれを適切に評価せず,原告Aが在留資格取得目的で原告Bと婚姻したにとどまるものと誤認したことが認められる。また,被告が答弁書において「両名(引用者注:原告ら両名を指す。)が平成26年4月頃から同居していたという前提においても疑う余地がある」(答弁書25頁)と主張していることに照らせば,裁決行政庁は,原告らが同月頃から同居を開始した事実を認定しなかったことがうかがわれ,あるいは,同事実を認定していたとしても,原告らが真摯な交際関係にあったことに疑念を持ち,真摯な交際を経て婚姻に至った経過について十分な評価をしなかったことが認められる

ケース3:不法残留期間中の婚姻の要保護性を認めた例

平成29年8月25日

東京地裁

平成28年(行ウ)第354号 ○

被告は,原告の不法残留という違法状態の上に築かれたCとの婚姻関係は,保護すべき必要性が低く,仮に原告が本国に送還されることにより何らかの不利益や不便が生じたとしても,そのような事情は両名において甘受すべきである旨主張する。
 しかしながら,本件において原告が不法残留するという判断に至った前提には,上記ア(ア)においてみたとおり,本件待婚規定に違憲とされるべき部分があり,客観的にみれば本来あるべき法状態に反する法運用状況があったといえることが明らかになっていることからすると,不法残留となった後に婚姻を届け出たからといって,それを専ら原告とCの責めに帰すべきものとして,送還による不利益を甘受することが当然であると評価することは必ずしも相当とはいえない。
 加えて,入管法上,「日本人の配偶者等」の在留資格の取消しに関しては,6月以上の期間にわたり一定の取消事由が継続している場合であっても,別の在留資格への変更等の蓋然性を支える特段の事情があり得ることを考慮して,その申請の機会を与えるべきことを定める規定が存在し(入管法22条の5),例えば,「日本人の配偶者等」として長期に在留している者が相手方の不倫等その責めに帰さない一方的事由により別居のやむなきに至った場合で,「定住者」等の在留資格への変更が見込まれるときには,取消しにより直ちに在留資格の喪失をもたらすような硬直的な取扱いとならないように配慮することを通じて,変更後の在留資格による保護が図られるようになっている。この規定の趣旨に照らせば,「日本人の配偶者等」の在留資格を有する者につき,取消事由の継続が6月に満たないままに,その在留期間中に,許容され得る活動に基づいて新たな在留資格の取得の蓋然性を支える特別の事情が生じている場合においても,同様の保護が図られることが相当であるということができ,そのような場合において,在留資格の変更手続を経ないままに在留期間を徒過するに至った事情次第によっては,変更後の在留資格の基礎となる関係が在留期間の徒過後に形成されたものであったとしても,一律にそれが違法状態の上に築かれたものとして保護の必要性が低いと評価することが必ずしも相当でない場合もあると考えられるところである。
 しかるところ,本件においては,原告が,前夫のBの暴力等が背景にある中で同人と別居に至り,在留資格を有する期間においてCとの真摯な交際を経て婚姻を決意していたところ,在留期間経過後,一部違憲であった本件待婚規定に基づく6か月の待婚期間の経過を待って速やかに婚姻を届け出たという経緯があるのであるから,この婚姻につき,不法残留という違法状態の上に築かれたものであるとして保護の必要性が低いと評価することは,当を得ないものというべきである。


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