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アライアンス法律事務所

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代表弁護士 小川敦也

入国者収容所長及び主任審査官の裁量:裁判例1

平成24年 2月 3日

東京地裁

平成23年(行ウ)第357号 ×

(1)退去強制手続における身柄の収容について,入管法は概ね次のとおり規定している。

ア 入国警備官は,入管法24条各号の一に該当すると思料する外国人があるときは,当該外国人(以下「容疑者」という。)につき違反調査をすることができ,容疑者が同条各号の一に該当すると疑うに足りる相当の理由があるときは,収容令書により,その者を収容することができる(入管法27条,39条1項)。そして,入国警備官は,容疑者を収容したときは,容疑者の身体を拘束した時から48時間以内に,調書及び証拠物とともに当該容疑者を入国審査官に引き渡さなければならない(入管法44条)。

イ 容疑者の引渡しを受けた入国審査官は,容疑者が退去強制対象者に該当するかどうかを速やかに審査し,審査の結果,容疑者が入管法第24条各号のいずれにも該当しないと認定したときは,直ちにその者を放免しなければならず,容疑者が出国命令対象者に該当すると認定したときは,速やかに主任審査官にその旨を知らせ,当該容疑者が出国命令を受けたときは,直ちにその者を放免しなければならない(入管法45条1項,47条1項,2項)。

ウ 特別審理官は,口頭審理の請求があったときは,速やかに口頭審理を行わなければならず,口頭審理の結果,容疑者が入管法24条各号のいずれにも該当しないことを理由として入国審査官の認定が事実に相違すると判定したときは,直ちにその者を放免しなければならず,容疑者が出国命令対象者に該当することを理由として入国審査官の認定が事実に相違すると判定したときは,速やかに主任審査官にその旨を知らせ,当該容疑者が出国命令を受けたときは,直ちにその者を放免しなければならない(入管法48条3項,6項,7項)。

エ 主任審査官は,法務大臣から容疑者が入管法24条各号のいずれにも該当しないことを理由として入管法49条1項に基づく異議の申出には理由があると裁決した旨の通知を受けたときは,直ちに当該容疑者を放免しなければならず,容疑者が出国命令対象者に該当することを理由として入管法49条1項に基づく異議の申出には理由があると裁決した旨の通知を受けた場合において,当該容疑者に対し出国命令をしたときは,直ちにその者を放免しなければならない(入管法49条4項,5項)。

オ 入国警備官は,退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときは,送還可能のときまで,その者を収容することができる(入管法52条5項)。

(2)そして,このような退去強制手続に伴う容疑者の収容は,我が国の出入国管理秩序等にとって好ましくないと認められる外国人を強制力をもって国外に排除するという強制退去手続を円滑かつ確実に遂行するとともに,他方で,我が国が採用する在留資格制度の下において,在留資格を有しない外国人が本邦で活動することを制限していることから,その趣旨を全うさせることを目的とするものであると解される。

 また,入管法54条は,収容令書又は退去強制令書の発付を受けて収容されている者の仮放免について規定しており,同条2項は,入国者収容所長又は主任審査官は,収容令書又は退去強制令書の発付を受けて収容されている者の情状及び仮放免の請求の理由となる証拠並びにその者の性格,資産等を考慮して,300万円を超えない範囲内で法務省令で定める額の保証金を納付させ,かつ,住居及び行動範囲の制限,呼出しに対する出頭の義務その他必要と認める条件を付して,その者を仮放免することができる旨定めている。この仮放免の制度は,前記のような退去強制手続に伴う収容の目的に照らせば,身柄収容の原則に対する例外的措置として,自費出国若しくはその準備のため又は病気治療のためなど,容疑者の身柄の収容を続けるとかえってその円滑な送還の執行を期待することができない場合や,その他人道的配慮を要する場合等特段の事情が存する場合に,一定の条件を付した上で一時的に身柄の解放を認める制度であると解される。

 そして,このような制度趣旨に加え,入管法54条2項が単に上記のように規定するのみで,仮放免の判断の要件や基準とすべき具体的事項を定めていないことなどからすれば、仮放免の許否の判断は,入国者収容所長及び主任審査官の広範な裁量に委ねられていると解され,その判断が違法とされるのは,上記の仮放免制度の趣旨等に照らし社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合に限られると解するのが相当である。

身柄を確保する実質的な必要性の要否:裁判例2

平成21年10月29日

東京高裁

平成21年(行コ)第209号 ×

 控訴人は,当審において,憲法31条の規律が入管法上の収容にも及ぶため,入管法によって身柄を確保するには,その実質的な必要性がある場合に限定されるべきである等と主張する。しかしながら,憲法上,外国人が本邦に入国することについては何ら規定しておらず,国際慣習法上も,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国に受け入れるかどうか,また,これを受入れる場合にいかなる条件を付与するかを,当該国家が自由に決定することができるものとされていることに照らせば,憲法上,外国人は,本邦に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利を保障されているものでもないと解される。

 入管法による身柄の確保は,上記のように解される憲法の下で,入管法が外国人の入国及び在留管理の基本となる制度として在留資格制度を採用した上で,外国人の本邦において行う活動が,在留資格に対応して定められる活動のいずれかに該当しない限りは,入国及び在留を認めないこととしていることに基づくものであって,国家が,在留資格に反した活動をし自国にとって好ましくないと認める外国人を,強制力をもって国外に排除する退去強制手続を行うに当たっては,前記判示のとおり身柄を収容して行うことが原則であり,身柄を確保することはその実質的な必要性がある場合に限定されるべきであるとする控訴人の主張は,採用することができない。

 また、仮放免制度は,特段の事情が存する場合に,一定の条件を付した上で一時的に身柄の解放を認める例外的な制度であって,入管法の規定上,具体的な判断基準等の定めがないことを考慮すると,仮放免の請求に対する許否の判断が,主任審査官等の広範な裁量にゆだねられていることは前記判示のとおりであって,身柄を確保する実質的な必要性がなければ仮放免を許可する義務が主任審査官等にあるとは認められないというべきである。

裁判例3:仮放免ないし仮放免期間延長の許否と入国者収容所長又は主任審査官の裁量権

昭和51年12月13日

東京地裁

昭和50年(行ウ)第132号 ×

(一) 原告らは、原告らに対しては、従来仮放免期間の延長が許可されていたものであるから、特段の事情の変化がない限り仮放免期間の延長は許可されるべきであり、本件各処分は被告自身のした判断を恣意的に変更したもので、令第五四条第一項第二項の解釈適用を誤つた違法があると主張する。

 令の規定する退去強制令書の執行手続は身柄を収容して行うのを原則とする(令第五二条第三項第五項参照)のであるが、令第五四条に規定する仮放免の制度は、右の原則に対する例外的措置として、自費出国又はその準備のため若しくは病気治療のため等身柄を収容するとかえつて円滑な送還の執行が期待できない場合、その他人道的配慮を要する場合等特段の事情がある場合に一定の条件を付したうえで一時的に身柄の解放を認める制度と解すべきである。

 したがつて、仮放免ないしは仮放免期間延長の許否の判断については入国者収容所長又は主任審査官に右の目的的見地からする広範囲な自由裁量が与えられているというべきであり、またその判断に際しては、請求者の申立てる理由に拘束されるものではなく、前記の諸事情等についても総合的に検討する必要のあることはいうまでもない

 これを本件についてみるに、原告洪静子を除く原告らが取消訴訟提起後である昭和五〇年七月七日原告訴訟代理人松山正とともに山崎哲夫審査二課長と面接したこと、その際同原告らは帰国する意思はなく、在留権があることを裁判所によつて判断してもらうべく訴訟及び執行停止の申立てをしたこと及び訴訟は長期間かかることが予想されその間妻子を扶養する必要があることを申し述べて同月一一日以降の仮放免期間の延長を申出たこと、理由書に扶養の必要性と訴訟提起の二点を記載し、かつ、国会議員島上善五郎のほか前記松山正を身元保証人として仮放免期間延長の申請をしたところ、同月一一日付で同年八月一一日までの期間延長が許可されたこと、原告洪有珍以外の原告らについては、同月一二日付で期間延長が許可されたこと、原告らにつき本件各処分がされたことは、当事者間に争いがない。

 右の事実に〈証拠略〉を合わせると、同年七月一一日付で原告洪静子を除く原告らに対し同年八月一一日までの仮放免期間の延長が許可されたのは、同年五月一二日出生した原告洪静子が令第二二条の二第一項に基づき適法に在留しているから、同原告のみを除外し、他の原告らを収容することは適当でないとの理由に基づくものであること、その後同年八月一日原告洪静子につき退去強制令書が発付され、かつ、原告らに自費出国の意思のないことが明らかになつたので、原告洪有珍については仮放免の理由がないと判断し、その期間延長を認めず、同年八月一二日不許可としたこと、しかし、その余の原告については家事整理の必要があるものと認め一か月間だけ期間延長を認めることとしたが、その後の延長は理由がないとしてこれを認めず、同年九月一〇日不許可としたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

 右事実によつてみれば、同年七月一一日付の原告洪静子を除く原告らに対する仮放免期間の延長は、原告らの請求理由と同じ理由によりこれを認めたものではなく、したがつて、本件各処分が被告自身のした判断を恣意的に変更してされたものということはできないから、本件各処分が令第五四条の解釈適用を誤つたものということはできない。よつて原告らの右主張は理由がない。

(二) 原告らは、原告らについて昭和五〇年八月一五日退去強制令書の送還部分の執行が停止されたから、本案判決が確定するまで数年間は法的に送還は不可能であり、したがつて、令第五二条第六項の放免がされるべきは当然であるから、本件処分は同項ひいては令第五四条の解釈適用を誤つた違法があると主張する。

 しかしながら、仮放免の許否の判断については、入国者収容所長又は主任審査官に広範囲な自由裁量が与えられていることは前述のとおりであるから、令第五二条第六項に該当する者に係る仮放免の請求についても、入国者収容所長等が当然に仮放免しなければならない義務を負うものではなく、その一切の事情を参酌した結果、場合により裁量権の逸脱ないし濫用と認められることがあるに過ぎない。そして、自らした退去強制令書発付処分の執行停止申立ての結果、その送還部分のみの執行が停止されている者につき仮放免を許可しなくても、裁量権の逸脱ないし濫用とはいえないし、その他本件各処分につき裁量権の逸脱ないし濫用が認められないことは、後記(三)に認定のとおりである。

(三) 原告らは、本件各処分がされたのは取消訴訟が係属中のことであり,特に洪有珍に対する処分は、執行停止決定申立事件につき許否の判断が近くされることが予想されていた段階であつて、本件各処分は訴訟を断念させようとするものであるから、裁量権を逸脱ないし濫用したものであると主張する。

 しかしながら、たとえ取消訴訟や執行停止決定申立事件が係属中であつても、仮放免の許否については既に述べた仮放免制度の目的に従いその許否の判断がされるべきものであつて、取消訴訟等が係属中である者は必ず仮放免を許さなければならないとする法理の存しないことはいうまでもない。また、本件の全証拠をもつてしても、被告が原告らの取消訴訟を断念させる目的をもつて本件各処分をした事実を認めることはできないし、その他裁量権の逸脱ないし濫用をうかがわしめるような事情を認めることはできない。 

 よつて、原告らの右主張は理由がない。


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